エネミー・ゼロ

エネミー・ゼロ：見えない敵との戦いと、革新的なゲーム性

1996年12月13日、セガサターン向けに発売された『エネミー・ゼロ』(ENEMY ZERO、略称E0)は、ゲーム業界に衝撃を与えたインタラクティブ・ムービーです。開発は株式会社ワープ、企画・脚本・監督は飯野賢治氏が務めました。セガサターン版は27.2万本を売り上げ、同ハードの売上ランキングで20位にランクイン。1997年には廉価版「サタコレ」として再発売され、1998年にはWindows 95/98対応のPC版もリリース、PC版を含めた累計販売本数は60万本に達しました。

ゲームシステム：アドベンチャーとアクションの融合

ゲームは、宇宙船内を探索するアドベンチャーパートと、見えない敵と戦うアクションパートの2部構成。

アドベンチャーパート

飯野賢治氏の前作『Dの食卓』を彷彿とさせる、アイテム収集や情報収集を伴う探索が中心。セーブ・ロードは「ボイスレコーダー」というアイテムを使用しますが、使用ごとにバッテリー残量が減少、バッテリー切れでデータが失われるという、緊張感あふれるシステムが採用されています。3Dレンダリングムービーと静止画を組み合わせた演出も特徴的です。また、謎解きの難易度は高く、多くのプレイヤーを悩ませました。

アクションパート

本作最大の特徴は、敵である「エネミー」の姿が見えない点です。FPS視点で、生体探知器「VPS」の音声情報（距離と方向を示す音階と間隔）を頼りに、エネミーの位置を推定し、「エネルギー銃」で攻撃しなければなりません。VPSの音声は、敵の距離が近づくにつれて間隔が狭まり、音階は正面・横・後ろで変化します。複数接近時には音の判別が困難になるなど、高い緊張感を維持するシステムです。ゲーム後半には、音が鳴らない代わりに姿が見えるエネミーも登場します。

この「音で探知する」システムは斬新に見えますが、PCエンジンの『サイレントデバッガーズ』(データイースト、1992年)が先行しており、飯野氏自身もその影響を認めています。

エネルギー銃はチャージ式で、チャージ時間や発射回数が重要になります。射程も短く、エネミーの攻撃はすべて即死。接近戦を強いられる緊張感の高い戦闘が特徴です。

ストーリー：謎の惨劇と、閉塞感漂う宇宙船

地球への帰還途中、大型宇宙船「ヴィークル・ジ・アキ」で緊急事態が発生。乗務員7人はコールド・スリープから覚醒します。主人公ローラ・ルイスは、乗務員との連絡を試みますが、通信障害により映像のみが表示される状況。仲間のパーカーがエネミーに惨殺される場面を目撃し、ローラは生き残りをかけた戦いを開始します。

登場人物

物語を彩る主要人物は、主人公ローラ・ルイスをはじめ、恋人のデヴィッド・バーナード、パーカーの恋人キンバリー・ハード、日本人エンジニアの高橋・ジョージ、船長のロニーなど個性豊かな面々。そして、謎に包まれたエネミーの存在が、物語にさらなる緊張感を与えています。

開発秘話と評価

当初プレイステーションでの発売が予定されていましたが、飯野氏自身の判断によりセガサターンに変更。これは、PS版『Dの食卓』の出荷本数に関する問題が原因だったと言われています。音楽は、マイケル・ナイマン氏が担当。アビー・ロード・スタジオで録音されたサウンドトラックは、ゲームの世界観をさらに深めています。

『ファミ通』のクロスレビューでは31点（満40点）を獲得し、シルバー殿堂入り目前。しかし、ゲームバランスの悪さから賛否両論を巻き起こし、後に飯野氏自身もその点について言及しています。また、『超クソゲー』という書籍ではクソゲーとして紹介されるなど、独特な評価を受けています。

限定版は20本のみ製造され、飯野氏自らが購入者のもとへ届けました。その豪華な内容も話題となりました。

『エネミー・ゼロ』は、その革新的なゲームシステムと、独特の世界観、そして開発秘話まで含め、多くの話題を提供した、伝説的なゲームとして語り継がれています。

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