エフェドリン

エフェドリン：漢方薬からダイエット薬、そして規制へ

エフェドリンは、古くから漢方薬として用いられてきたマオウ（麻黄、 Ephedra sinica）に含まれるアルカロイドです。1885年、日本の化学者である長井長義博士によってマオウから単離・抽出されました。気管支拡張作用や交感神経興奮作用を持つことから、気管支喘息や低血圧の治療薬として、また、充血除去薬としても幅広く使用されてきました。

薬理作用と化学的性質

エフェドリンはアドレナリン受容体作動薬であり、主に交感神経系に作用します。α-およびβ-アドレナリン受容体を刺激し、ノルアドレナリンの放出を促進することで、気管支拡張、血圧上昇などの効果を発揮します。しかし、短期間の反復投与では効果が減弱するタキフィラキシーが認められます。

エフェドリンは光学活性を持つ化合物であり、エフェドリンとプソイドエフェドリン（偽エフェドリン）という2つの鏡像異性体が存在します。市場に出回っているエフェドリンは、(−)-(1R,2S)-エフェドリンです。その化学構造は、メタンフェタミンと類似しており、違法薬物の製造にも利用されるため、規制対象となっています。

医療における使用と代替薬

伝統的な漢方医学では、気管支喘息や気管支炎の治療にエフェドリンが用いられてきました。西洋医学においても、かつては気管支拡張剤や充血除去剤として広く使用されていましたが、近年はより効果的で安全性の高い代替薬が登場したため、その使用頻度は減少しています。例えば、鼻づまりにはオキシメタゾリンなどのより強力なα-アドレナリン受容体作動薬が、喘息にはサルブタモールなどのβ2-アドレナリン受容体作動薬が使用されるようになっています。

現在、エフェドリンは主に、脊髄くも膜下麻酔や硬膜外麻酔における低血圧の治療、その他の低血圧状態、ナルコレプシー、夜尿症などに用いられています。

減量薬としての使用と規制

エフェドリンは、かつてはダイエット薬の成分として用いられていましたが、心臓発作や脳卒中などの深刻な副作用が報告されたため、多くの国で販売が禁止または規制されています。特に、エフェドリン、カフェイン、アスピリンを組み合わせたECAスタックは、ボディビルダーの間で人気がありましたが、健康被害の危険性から、北米では規制対象となっています。

2003年には、MLBの投手であったスティーブ・ベックラーが、エフェドリンを含むダイエットサプリメントの服用によって熱射病で死亡した事件が発生し、MLBはエフェドリンを禁止薬物に指定しました。アメリカ合衆国では、この事件を機にエフェドリンを含むダイエット薬の販売が禁止されました。

娯楽的使用とドーピング

エフェドリンは、集中力や学習効率を高める効果があるとされることから、一部の学生やホワイトカラーワーカー、スポーツ選手によって乱用されてきました。しかし、精神依存や健康被害のリスクがあることから、ドーピング検査の対象となっており、世界アンチ・ドーピング機関（WADA）の禁止薬物リストにも掲載されています。

覚せい剤原料としての問題と規制

エフェドリンは、メタンフェタミンなどの違法薬物の製造に用いられる前駆物質です。そのため、エフェドリンを含む医薬品の取り扱いには厳しい規制が設けられており、日本では2014年6月からの薬事法改正により、エフェドリンやプソイドエフェドリンを含む一般用医薬品の販売は、原則として1人1箱に制限されています。

まとめ

エフェドリンは、古くから利用されてきた有効な薬理作用を持つ一方、その乱用や依存性のリスク、違法薬物製造への利用可能性から、厳しい規制がかけられています。医療用途においても、より安全性の高い代替薬が用いられることが多くなっています。エフェドリンの使用にあたっては、そのリスクとベネフィットを十分に理解し、医師や薬剤師の指示に従うことが重要です。

もう一度検索