エベレストを滑った男

『エベレストを滑った男』

『エベレストを滑った男』は、1975年に公開された日本のドキュメンタリー映画で、プロスキーヤーで登山家の三浦雄一郎が1970年5月にエベレストをスキーで滑降する様子を追った作品です。この映画は、カナダの映画プロデューサーであるバッジ・クローリーによって制作され、後に第48回アカデミー賞ドキュメンタリー映画賞を受賞しました。映画の原案となる映像は、三浦が1970年7月に公開された『エベレスト大滑降』で初めて一般に披露されていました。

エベレストでの滑降

三浦は1970年5月5日に、エベレストのノーマルルートの途中であるローツェのサウスコル（標高7985m）に到着しました。最初の計画ではこの地点から滑降を始めることになっていましたが、実際にはサウスコルから約200m下がり、標高7780m地点からスキーを始めました。この地点は、岩場「イエロー・バンド」から続く急な斜面に位置していました。三浦は、減速用のパラシュート、無線通信機能が搭載されたヘルメット、酸素マスク、救命胴衣を身に着けて、標高7000m地点までの滑走を約2分20秒で完了しました。

当初の目標は標高6200m地点までの滑降でしたが、わずか1分40秒後、パラシュートを操作する際に転倒し、右足のスキー板が外れてしまいました。その結果、最後は外れたスキー板が体に絡まる形で止まりました。他の挑戦者たちが多くの困難を乗り越える中、三浦は世界最高地点からのスキー滑降を成功させたのです。

遠征の背景

この滑降は、1970年当時の日本エベレスト・スキー探検隊の一環として計画されており、総本部長は藤島泰輔が務めました。しかし、この遠征は非常に危険な状況であり、シェルパ6人が遭難死するという悲劇も伴いました。一方、同年の別の日本の登山隊もエベレストに挑んでおり、その中から松浦輝夫、植村直己、平林克敏の3人が日本人として初めてのエベレスト登頂を果たしました。しかし、この試みも命を賭けたものであり、複数の死者を出していました。

映画とその影響

『エベレストを滑った男』は、公開から数年後にアメリカ合衆国大統領のジミー・カーターによってホワイトハウスで何度も観賞されたとされ、彼は三浦の勇気と挑戦する姿に感銘を受けたと述べました。また、カナダの首相当時のピエール・トルドーもこの映画がカナダ初のアカデミー賞を受賞したことを祝福し、三浦と何度も会見する機会がありました。

2004年には三浦がカーターに招待され、その際、カーターは「夢に向かってチャレンジする姿勢の素晴らしさ」に感動したと語りました。この作品は三浦の著書として『エベレストを滑った男』が出版され、後にちくまプリマーブックスとして再刊されるなど、その影響範囲は広がっています。

まとめ

『エベレストを滑った男』は、単なる冒険記録に留まらず、挑戦と勇気を伝えるドキュメンタリーとして、多くの人々に感動と思考を促した作品です。世界の屋根からのスキー滑降という前人未到の挑戦を成し遂げた三浦雄一郎の姿は、今なお多くの人々にインスピレーションを与え続けています。

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