エマ・オブ・ノーマンディー

エマ：二度イングランド王妃となった女性

エマ（985年頃 - 1052年3月6日）は、ノルマンディー公リシャール1世とグンノーラの娘として生まれました。彼女の人生は、イングランド王家の歴史に深く刻まれた、ドラマチックな出来事の連続でした。エマは、2度の結婚を通じて2度もイングランド王妃の座に就き、その子供たちは後のイングランド王となりました。

エゼルレッド2世との結婚と亡命

1002年、エマはイングランド王エゼルレッド2世と結婚しました。これは、ノルマンディーからの侵略を防ぐための、政治的な側面が強い結婚だったと考えられています。エマはエゼルレッド2世との間に、ゴーダ、エドワード懺悔王、アルフレッド・アシリングの3人の子供をもうけました。しかし、1013年にデンマークの侵略が始まり、エマの子供たちはノルマンディーへと亡命を余儀なくされました。

クヌート1世との結婚と王位継承

1016年、エゼルレッド2世とその後継者であるエドマンド2世が亡くなると、デンマーク王子クヌートがイングランド王となりました。クヌートは既に妻がいましたが、1017年にエマと結婚しました。この結婚も、ノルマンディーとの関係維持という政治的な思惑が背景にあったと推測されています。エマとクヌートの間には、ハーデクヌーズとグンヒルダの2人の子供が生まれました。クヌートは、ハーデクヌーズをデンマークの王位継承者とすることを約束しました。

王位争いと亡命生活

1035年、クヌートが亡くなると、デンマーク王位は約束通りハーデクヌーズが継承しましたが、イングランド王位はクヌートの庶子ハロルドが掌握しました。エマの息子であるエドワードとアルフレッドは、ハロルドに対抗するためにイングランドへ戻りましたが、アルフレッドは捕らえられ殺害されてしまいました。エドワードは再びノルマンディーへ逃亡し、エマ自身もブルッヘを経てフランドル伯の宮廷へと身を寄せました。この期間に書かれた『エマ賛辞』は、エマの生涯を知る上で貴重な資料となっています。

1040年にハロルドが亡くなると、ハーデクヌーズがイングランド王となりました。しかし、1042年にハーデクヌーズも亡くなり、ついにエマの息子エドワードがイングランド王エドワード懺悔王として即位しました。エマは、息子エドワードではなく、ハーデクヌーズの異母弟であるマグヌスを支持したため、息子エドワードからは見捨てられたまま生涯を終えました。

エマの評価と歴史的意義

エマは、2度の結婚において、いずれも前妻よりも劣ると評価されることが多く、その理由は、それぞれの夫の最初の妻が、出産時の合併症などで亡くなっていたため、敬意を払われていたという背景があります。

しかし、エマの2度の結婚は、イングランドとノルマンディーの強い関係を生み出し、後のノルマン・コンクエストへと繋がる重要な役割を果たしました。彼女の生涯は、権力闘争と政治的駆け引き、そして家族愛の複雑な絡み合いの中で展開されました。エマは、イングランド王家の歴史に大きな影響を与えた、重要な人物であったと言えるでしょう。

参考文献

Pauline Stafford. Queen Emma and Queen Edith: Queenship and Women's Power in Eleventh-century England 2001 Blackwell's
Isabella Strachan. Emma: The Twice-crowned Queen of England in the Viking Age 2005 Peter Owen
Harriet O'Brien. Queen Emma and the Vikings 2005 Bloomsbury U.S.A.
Helen Hollick. The Hollow Crown. (August 2004) William Heinemann, Random House. ISBN 0-434-00491-X; Arrow paperback ISBN 0-09-927234-2
* Noah Gordon. The Physician 1986 Macmillan ISBN 067147748X

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