エミリー・ブロンテ:嵐が丘の作家、波乱の生涯と文学的遺産
エミリー・ジェーン・ブロンテは、
1818年7月30日、
イギリスの
ヨークシャーで牧師の父と母のもとに生まれました。ブロンテ三姉妹の次女として知られ、兄のブランウェルも
作家として活動していました。彼女の人生は、早世した姉たちの死や、過酷な
ガヴァネスとしての経験など、困難に満ちていました。しかし、こうした逆境は、彼女独自の文学世界を育む土壌ともなったと言えるでしょう。
孤独と想像力の交響曲:幼少期から青年期
幼少期、エミリーは家族とともに
ヨークシャーの牧師館で暮らしました。しかし、母を早くに亡くし、姉たちの死も経験しています。これらの喪失体験は、彼女の感受性に深く刻まれ、後の作品に反映されていると言えるでしょう。
姉たちと共に通った学校は衛生状態が悪く、姉たちは肺
結核で命を落としました。この経験は、エミリーの心に深い影を落とすと同時に、彼女を想像の世界へと駆り立てたのかもしれません。
10代になると、姉たちや兄と創作活動に没頭。彼らはそれぞれが独自の幻想世界を作り、エミリーと妹のアンは「ゴンダル」という架空の世界を創造しました。恋愛や戦争といったテーマを詩や散文で表現したこの世界観は、後のエミリーの詩作や小説に大きな影響を与えたと言われています。
経済的困難と文学への道
ブロンテ家には経済的な余裕がなく、エミリーは教師や
ガヴァネスとして働くことを余儀なくされました。こうした職業は、当時の女性にとって過酷なものでしたが、彼女はこうした経験を通して、社会の現実や人間の複雑さを知ることになります。
ガヴァネスとしての経験の後、姉シャーロットと共に
ベルギーに留学するも、短期間で帰国。その後、私塾を開設しようとするも失敗に終わるなど、安定した生活を送ることはできませんでした。
秘密主義から世界へ:『嵐が丘』の誕生と評価
1846年、姉シャーロットの勧めで、エミリーは姉妹と共に詩集を出版しました。しかし、それは大きな成功とはならず、売れ行きは芳しくありませんでした。エミリーは、自身の作品を世に送り出すことをあまり望んでいませんでしたが、家族の経済状況も考慮して決断したと言えるでしょう。
その後、彼女は小説『
嵐が丘』を執筆しました。1847年に出版されたこの小説は、当初はあまり注目されませんでしたが、彼女の没後、その独創的な世界観と深い心理描写から、高い評価を受けるようになりました。
晩年と死:ゴンダルと『嵐が丘』の遺産
1848年、兄のブランウェルの死をきっかけに、エミリー自身も
結核を患い、同年
12月19日に30歳の若さで亡くなりました。
『
嵐が丘』は、荒涼とした
ヨークシャーの自然と、複雑な人間関係を背景に、激しい愛憎を描いた作品として知られています。また、エミリーが生涯をかけて創造し続けた「ゴンダル」の世界も、彼女の想像力の豊かさ、そしてその文学的遺産を伝える貴重なものです。
エミリー・ブロンテの生涯は、困難と喪失に満ちたものでしたが、彼女はその中で、独自の文学世界を築き上げました。『
嵐が丘』という不朽の名作は、彼女の才能と、その波乱に満ちた人生の証となっています。彼女の作品は、今もなお、多くの読者を魅了し続けています。
主要作品
小説:『嵐が丘』(Wuthering Heights)
詩集:『カラー、エリス、アクトン・ベルの詩集』(Poems by Currer, Ellis, and Acton Bell) (姉妹との共著)
参考文献
* 芦澤久江「エミリー・ブロンテの詩について」『言語文化』第19巻、明治学院大学言語文化研究所、2002年3月