エミール・ハートマン

エミール・ハートマン（Emil Hartmann）

エミール・ハートマンは、1836年2月1日にデンマークのコペンハーゲンで生を受け、1898年7月18日に同地で没した作曲家です。彼は、デンマークを代表する作曲家の一人であったヨハン・ペーター・エミリウス・ハートマンの長男であり、当時の音楽界の重鎮ニルス・ゲーゼや、作曲家・ピアニストのアウグスト・ヴィンディングとは義理の兄弟にあたる、音楽家系の出身でした。また、彼の息子オルフは後に画家として活動しています。

略歴と活動

ハートマンは幼い頃から音楽に親しみ、作曲を始めました。初期の音楽教育は、父ヨハン・ペーター・エミリウスと義理の兄ニルス・ゲーゼという、才能豊かな音楽家たちから直接指導を受けたことが特筆されます。その後、コペンハーゲン大学で学問を修めました。

キャリアの初期において、彼は義兄ヴィンディングと共に、バレエ音楽の作曲に携わりました。1858年に依頼されたアウグスト・ブルノンヴィルのバレエ「Fjeldstuen（山の小屋）」のための音楽は、彼にとって初めて手掛けた大規模な作品となり、その後の創作活動における重要な一歩となりました。

1859年には奨学金を得てドイツへ留学する機会を得ます。留学期間の大半を音楽の中心地の一つであるライプツィヒで過ごし、見聞を広めました。留学から帰国後、彼はオルガニストとしての職に就きます。1861年からはコペンハーゲンのセント・ヨハン教会でオルガニストを務め、その後1871年からはクリスチャンスボー城の教会オルガニストに転任し、晩年まで教会音楽にも深く関わりました。

主な作品

エミール・ハートマンは、多岐にわたるジャンルで多くの作品を残しました。彼の作品リストは膨大であり、以下はその一部ですが、その多様性を示しています。

彼は4曲の交響曲（第1番 変ホ長調 Op.29、第2番 イ短調「騎士の時代より」 Op.34a、第3番 ニ長調 Op.42、第4番 ニ短調 Op.49）を作曲しました。これらの交響曲は、後期ロマン派から国民ロマン派へと移行するデンマーク音楽の潮流の中で位置づけられる作品群です。

協奏曲としては、ヴァイオリン協奏曲 ト短調 Op.19、チェロ協奏曲 ニ短調 Op.26、ピアノ協奏曲 ヘ短調 Op.47をそれぞれ1曲ずつ残しています。これらの作品は、各楽器の特性を生かした叙情的な旋律と力強い表現が特徴とされます。

室内楽曲も数多く手掛けており、ピアノ五重奏曲 Op.5、ピアノ三重奏曲 Op.10、ピアノソナタ イ短調 Op.11、弦楽四重奏曲（イ短調 Op.14、ハ短調 Op.37、その他1曲 Op.38）などがあります。また、クラリネット、チェロ、ピアノのためのセレナード Op.24や、8つの管楽器、チェロ、コントラバスのためのセレナード 変ロ長調 Op.43といった珍しい編成の作品も手掛けています。

舞台作品としては、オペラ「Elver Girl（妖精の娘）」 Op.4や、前述のバレエ「Fjeldstuen」、その他ジングシュピールや劇付随音楽、バレエ音楽など、劇場のための音楽も積極的に作曲しました。演奏会用序曲としては「Hærmændene på Helgeland（ヘイゲランの勇士たち）」 Op.25や「スコットランド序曲」 Op.44などがあります。

声楽曲の分野でも、独唱、合唱、管弦楽のための作品や、カンタータ、歌曲、男声合唱曲など、様々な編成の作品を残しています。特に「北欧のフォークダンス」シリーズ（Op.2, Op.3, Op.6a, Op.6b, Op.18）は、デンマークの民族音楽にインスピレーションを得た作品として知られています。

エミール・ハートマンの作品は、父ヨハン・ペーター・エミリウスや義兄ニルス・ゲーゼといった先達の様式を受け継ぎつつも、独自の叙情的で表現豊かなスタイルを確立しました。彼はオルガニストとして教会に仕える傍ら、幅広いジャンルで創作活動を行い、デンマーク音楽の発展に貢献した作曲家として記憶されています。

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