エリ (北欧神話)

エリ：トールを破った老齢の化身

北欧神話において、エリという老婆は特異な存在として知られています。彼女は『スノッリのエッダ』の「ギュルヴィたぶらかし」という章に登場し、驚異的な怪力で名高い神トールでさえも、角力（レスリング）で打ち負かした人物として描かれています。

エリは単なる老婆ではありません。彼女は「老齢」そのものを擬人化した存在であり、その強さは老いの圧倒的な力、あるいは避けられない運命の象徴と言えるでしょう。

トールとの角力

「ギュルヴィたぶらかし」では、トール一行が巨人ウートガルザ・ロキの館を訪れます。そこでウートガルザ・ロキは、トールの力を試す様々な試練を課します。酒の飲み比べでは恥をかかされたトールは、雪辱を誓い、角力勝負を挑みます。

ウートガルザ・ロキは、自らの乳母であるエリを対戦相手として差し出します。エリは、これまで多くの強者を打ち負かしてきたとされています。老齢の老婆、エリとの対決。トールは、全力を尽くして挑みますが、エリの圧倒的な力に屈し、片膝をつきます。

勝負の後、ウートガルザ・ロキはエリの正体を明かします。エリは想像をはるかに超える強敵であり、トールがこれほど長く持ちこたえたこと自体が驚異的だったと説明します。エリは「老齢」そのもの。老いること、そして老齢に抗うことの難しさを象徴的に示しています。

エリの正体と物語の解釈

エリは『スノッリのエッダ』でのみ登場する存在であり、他の北欧神話関連の文献には登場しません。そのため、エリの物語はスノッリ自身による創作の可能性が高いとされています。スノッリは、この物語を裏付ける古い詩を引用していません。

しかし、神々でさえ老化の影響から逃れることはできないという、普遍的なテーマを物語っていると言えるでしょう。北欧神話においては、神々が若さを保つために定期的にイズンの林檎を食べなければならないという記述が存在します。これは、老化や死という避けられない運命を間接的に示唆しています。

エリとの角力を通して、トールは自身の強さだけでなく、老いという避けられない運命の前に、どんな強者でも無力になりうるということを思い知らされるのです。

まとめ

エリは、北欧神話において老齢を擬人化した存在として、神トールをも打ち負かした人物として、特異な存在感を示しています。この物語は、老いという普遍的なテーマを象徴的に表現しており、強大な力を持つ神々でさえも、老いという運命の前には無力であることを示唆していると言えるでしょう。エリの物語は、スノッリによる創作の可能性が高いものの、北欧神話における老化や運命というテーマを理解する上で重要な役割を果たしています。その存在は、北欧神話の世界観をより深く理解するための、重要なカギとなるでしょう。

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