エリザーベト・レオンスカヤ

エリザヴェタ・イリーニシナ・レオンスカヤ

（ロシア語: Елизавета Ильинична Леонская、英語: Elisabeth Ilinichna Leonskaja）

グルジア（現在のジョージア）のトビリシで生まれたピアニスト、エリザヴェタ・イリーニシナ・レオンスカヤは、その卓越した技量と深い音楽性で世界中の聴衆を魅了し続けています。1945年 11月23日に、ユダヤおよびポーランド系の家庭に生を受けた彼女の音楽の旅は、早くから始まりました。

幼少期から研鑽の日々

レオンスカヤが初めてピアノに触れたのは6歳半の頃です。すぐにその才能を開花させ、7歳で地元の音楽学校に入学を許可されました。わずか11歳で、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番をオーケストラと共演し、13歳には初のソロリサイタルを開催するなど、幼少期から並外れた才能を発揮しました。14歳からは、ロシアの厳格なピアノ教育を受け継ぐキエフ出身の教師のもとで4年間にわたる集中的な指導を受け、その音楽的基礎を確固たるものにしました。

さらなる高みを目指し、1964年にモスクワ音楽院に入学。高名なヤコブ・ミルスタインに師事し、研鑽を積む傍ら、数々の国際コンクールに挑戦しました。1964年のジョルジュ・エネスク国際コンクールでの優勝を皮切りに、翌1965年にはロン＝ティボー国際コンクールで第3位、1968年には権威あるエリザベート王妃国際音楽コンクールで第9位に入賞するなど、旧ソ連国内だけでなく国際舞台でもその実力を示し、将来を嘱望される存在となりました。

ウィーンへの移住と世界的名声の確立

彼女のキャリアにおいて大きな転機となったのは、1978年のウィーンへの移住です。演奏ツアーでウィーンを訪れていた際、ソビエト連邦に帰国しないことを決断し、その後の音楽活動の拠点を西側ヨーロッパに移しました。この決断は、当時の政治情勢を考えると、音楽家としての信念に基づく勇気ある選択でした。

ウィーン移住後、レオンスカヤはすぐにその才能を認められます。特に1979年のザルツブルク音楽祭への鮮烈なデビューは、批評家からも高く評価され、彼女の国際的な名声を不動のものとしました。以来、彼女はベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団といった世界の主要なオーケストラや、クラウディオ・アバド、クルト・マズアといった著名な指揮者と共演し、数多くの著名な音楽祭に招聘されるなど、常にクラシック音楽界の第一線で活躍を続けています。また、後進の指導にも熱心で、その教えを受けた音楽家の中には、ザルツブルク音楽祭総監督を務めたマルクス・ヒンターホイザーらがいます。

録音と演奏活動の軌跡

レオンスカヤの録音活動は多岐にわたりますが、中でも特筆すべきは、20世紀を代表する偉大なピアニスト、スヴャトスラフ・リヒテルとの深い友情と数多くの共演です。二人は固い信頼関係で結ばれ、共に数々の忘れがたい演奏を残しました。特に、彼らが共に演奏したモーツァルトのピアノソナタ（エドヴァルド・グリーグによる2台ピアノのためのトランスクリプション版）の録音は特に有名で、二人の息の合った対話が今に伝わっています。彼女の公式な録音は長年テルデックからリリースされていましたが、後にMDGを経て、現在はワーナー・クラシックスから新作を発表しています。

また、レオンスカヤは世界各地でマスタークラスを通じて若い音楽家の育成にも情熱を注いでいます。近年はフランツ・シューベルトの作品に強い情熱を注いでおり、シューベルトのピアノソナタ全集録音を進行させているほか、2018年には日本でシューベルトのピアノ・ソナタ全曲演奏会シリーズを開催するなど、探求心に満ちた積極的な活動を展開しています。

受賞と栄典

長年にわたる音楽界への貢献に対し、レオンスカヤは様々な栄誉を受けています。1999年にはオーストリアのドイチュランツベルク市名誉市民に選ばれ、2006年にはオーストリア政府より学術・文化における最高栄誉の一つである第一等学術・文化名誉十字勲章を受章しました。さらに2009年には、ルーマニア文化功労勲章を授与されるなど、その国際的な貢献が高く評価されています。

私生活

私生活では、旧ソ連を代表する著名なヴァイオリニストであったオレグ・カガンと1968年に結婚しました。二人は互いを尊敬し合い、音楽家として互いに支え合うパートナーでした。

エリザヴェタ・レオンスカヤは、その輝かしいキャリアを通じて、常に音楽への誠実な姿勢を貫いてきました。旧ソ連時代に培われた強固なテクニックと、西側で花開いた自由で深い表現力が融合した彼女の演奏は、今なお多くの人々を感動させ続けています。その精力的な活動は衰えることなく、現代のクラシック音楽界における最も重要な存在の一人であり続けています。

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