エリック・ウィリアムズ

エリック・ウィリアムズ：トリニダード・トバゴの父、その生涯と業績

エリック・ユースタス・ウィリアムズ（Eric Eustace Williams, 1911年9月25日 - 1981年3月29日）は、トリニダード・トバゴ共和国の政治家であり、初代首相を務めました。その国家への多大な貢献から「トリニダードの父」として国民に敬愛されています。また、歴史学者としても著名であり、カリブ海地域研究に大きな足跡を残しました。

生い立ちと学歴

1911年、ウィリアムズはイギリス自治領トリニダード島の首都ポートオブスペインで、郵便局員の息子として生を受けました。母方はフレンチ・クレオールのエリート層に属していました。彼は幼い頃から学業に秀で、トリニダード島のクィーンズ・ロイヤル・カレッジでは圧倒的な成績を修め、特にラテン語の才能は傑出していました。その才能を認められ、トリニダード政府の奨学金を得て、1932年にイギリスのオックスフォード大学に入学。1935年に歴史学の学位を取得して卒業しました。

1938年には、V・ハーローの指導のもとで博士号を取得。この頃、C・L・R・ジェームズから大きな影響を受け、博士論文 "The Economic Aspect of the West Indian Slave Trade and Slavery" は、ジェームズの『ブラック・ジャコバン』に大きく影響されています。当時の英国では、奴隷制度廃止は人道主義者たちの功績であるという考え方が一般的でしたが、ウィリアムズは、奴隷制の廃止もまた資本主義の要請によるものであると主張しました。その革新的な視点は、マルクス主義専門の出版社でさえ「イギリス人の伝統的な考えに合わない」として出版を拒否するほどでした。

ハワード大学での教鞭と政治活動

1939年、ウィリアムズはハワード大学で教鞭を執り、1947年までに常勤教授となりました。1944年には「アングロアメリカン・カリブ諸島委員会」の委員に米国の推薦で選ばれますが、英国は彼の起用に強く反対しました。1948年、委員会のカリブ諸島調査会議の副議長としてトリニダードに戻り、一連の教育的な講義を行い、国民的な人気を得ました。しかし、委員会との意見の相違から、1955年に委員会を辞任しました。

人民国家運動（PNM）の創設と独立運動

1956年1月15日、ウィリアムズは政党、人民国家運動 (People's National Movement, PNM) を創設しました。それまでの彼の活動は、教員教育文化協会（公式の教員組合の代替として1940年代に設立されたグループ）の分派である政治教育運動 (PEM) が後援していました。PNMは、高度に組織された階級的な体制を採り、トリニダードの政治における一時的な政治集団とは一線を画しました。

同年9月24日に行われた立法議会選挙で、PNMは24議席中13議席を獲得し、ウィリアムズは総督の反対を押し切って首相に選出されました。当時、脱植民地化の波が押し寄せており、イギリス領西インド諸島は西インド連邦として独立することが決定されていました。しかし、イギリス領ギアナとイギリス領ホンジュラスは連邦への加盟を選ばず、ジャマイカとトリニダードが主要な構成国として残されました。

首相として、ウィリアムズは分離主義派を排斥し、欧米帝国主義からの脱却を目指しました。カリブ海地域には、プエルトリコのように列強への同化を求める動きもあれば、キューバのように独自の社会主義を展開する国もあり、外交面での調整は困難を極めました。彼はフィデル・カストロの民族主義的な意義を認めつつも、全体主義的な傾向を批判しました。

1962年、トリニダード・トバゴは独立を達成し、ウィリアムズは初代首相としてその手腕を発揮し、1981年に亡くなるまでその地位にありました。

歴史学者としての業績

ウィリアムズは歴史学者としても高い評価を受けており、代表的な著書に『資本主義と奴隷制』（1944年）があります。この著書で彼は、資本主義成立の内因論を批判し、資本主義の成立はカリブ海の黒人奴隷の労働と大西洋三角貿易によって蓄積された資本によるものであるという外因論的な見解を提示しました。この著作は、奴隷制研究における重要なマイルストーンとなっています。

著書

『資本主義と奴隷制』（1944年）
『コロンブスからカストロまで カリブ海域史』
* 『帝国主義と知識人　イギリスの歴史家たちと西インド』

エリック・ウィリアムズは、政治家としてトリニダード・トバゴの独立を導き、歴史学者として奴隷制と資本主義の関係を明らかにするなど、多岐にわたる分野で大きな功績を残しました。彼の思想と業績は、現代においてもカリブ海地域研究において重要な位置を占めています。

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