エリック・クラプトン・ソロ

概要

1970年に世に送り出された『エリック・クラプトン・ソロ』（英語原題：Eric Clapton）は、そのタイトルが示す通り、ギタリストとして世界的な名声を確立していたエリック・クラプトンが自身の名前で初めて発表した公式スタジオ・アルバムです。それまでヤードバーズ、クリーム、ブラインド・フェイスといった名だたるバンドを渡り歩いてきた彼が、新たな音楽的探求の道を歩み始めた記念碑的作品といえます。

制作の背景

短命に終わったスーパーグループ、ブラインド・フェイスが解散した後、クラプトンは自身のキャリアについて模索していました。この時期、彼はデラニー＆ボニーとそのフレンズとのツアーに参加し、大きな音楽的刺激を受けます。特に彼らのルーズで温かみのあるサウンドと、多数のミュージシャンが一体となって作り出すセッション的なアプローチに深く感銘を受けました。この経験が、自身のソロ・アルバム制作へと繋がる決定的な要因となります。プロデューサーには、そのデラニー＆ボニーの中心人物であったデラニー・ブラムレットが起用され、彼の主導のもと、アルバムの方向性が定められました。

音楽性とサウンド

本作に収録されている楽曲は、それまでのクラプトンが主に探求してきたブルース・ロックやサイケデリックなサウンドとは一線を画しています。当時の彼が、ザ・バンドをはじめとするルーツ色の強いアメリカン・ロックに強く傾倒していたことがサウンドに反映されており、より泥臭く、ゴスペルやカントリー、R&Bといった多様なアメリカ音楽の要素が織り交ぜられた、温かくオーガニックな響きを持っています。ブラムレットのプロデュースと、彼が率いる豪華なミュージシャンたちの参加によって、アルバム全体に統一感のあるアメリカン・ロック的な質感が与えられています。

ミキシングの異なるバージョン

本作には、発表当時流通したバージョンと、後にプロデューサーによって異なるミックスが施されたバージョンが存在します。オリジナル盤として世に出たのは、著名なエンジニアであるトム・ダウドが手掛けたミックスに基づいています。しかし、プロデューサーのデラニー・ブラムレット自身も独自のミキシングを行っており、こちらは発表当時にはメインとして採用されませんでした。ブラムレットによるミックス・バージョンは、2006年に発売されたデラックス・エディション盤に初めて公式に収録され、ファンの間で比較検討される対象となりました。

特筆すべき収録曲

このアルバムからシングル・カットされ、その後のクラプトンのキャリアを代表する楽曲の一つとなったのが「アフター・ミッドナイト」です。この曲は、シンガーソングライターのJ・J・ケイルが作曲したもので、後にケイル自身のバージョンも広く知られることになりますが、クラプトンのカバーによって世界的にその名が知られるようになりました。この楽曲のヒットは、アルバム全体の評価を高める上で大きな役割を果たしました。

参加ミュージシャン

本作の録音には、エリック・クラプトン（ギター、リード・ボーカル）を中心に、プロデューサーのデラニー・ブラムレット（リズムギター、ボーカル）のほか、レオン・ラッセル（ピアノ）、ボビー・ウィットロック（オルガン、ボーカル）、ジョン・サイモン（ピアノ）、カール・レイドル（ベース）、ジム・ゴードン（ドラムス）といった、後にクラプトンとデレク・アンド・ザ・ドミノスを結成するメンバーを含む、当時のアメリカ西海岸を代表する多くのセッション・ミュージシャンや友人たちが参加しています。ジム・プライス（トランペット）、ボビー・キーズ（サックス）、テックス・ジョンソン（パーカッション）、ボニー・ブラムレット、リタ・クーリッジ、ソニー・カーティス、ジェリー・アリソン、スティーヴン・スティルスといった多彩な顔ぶれが集結し、極めて豊かなアンサンブルを生み出しています。

プロダクション・クレジット

アルバムのプロデュースおよびアレンジはデラニー・ブラムレットが担当しました。エンジニアはビル・ハルバーソンが務め、録音はロサンゼルスにあるザ・ヴィレッジ・レコーダーで行われました。アルバムのデザインと写真は、カモフラージュ・プロダクション所属のバリー・ファインスタインとトム・ウィルクスが手掛けています。

まとめ

『エリック・クラプトン・ソロ』は、単なる有名ギタリストのソロ作品というだけでなく、ブラインド・フェイス期までとは異なる新しい音楽的方向性を示した重要な転換点となるアルバムです。デラニー・ブラムレットとの共同作業から生まれたアメリカン・ロック色の強いサウンドは、後のクラプトンの音楽性にも影響を与え、「アフター・ミッドナイト」という時代を象徴する名曲を生み出しました。多彩なミュージシャンが集ったセッションの活気がそのままパッケージされたような本作は、クラプトンのディスコグラフィーにおいて欠かすことのできない初期の名盤として、今なお多くの音楽ファンに聴き継がれています。

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