エリー湖の湖上戦

エリー湖の湖上戦：米英戦争の転換点

エリー湖の湖上戦は、1813年9月10日にアメリカ合衆国とイギリスの間で戦われた重要な海戦です。この戦いは、米英戦争の行方を大きく左右し、アメリカ海軍がエリー湖の制海権を確立する決定的な戦いとなりました。

戦争の背景

1812年に米英戦争が勃発すると、イギリス軍は直ちにエリー湖の制海権を掌握しました。当時、イギリス海軍は小規模な艦隊を保有しており、主に輸送任務に使用されていました。一方、アメリカ海軍はこれに対抗する戦力を持っていませんでした。この優位性を活かし、イギリス軍はデトロイトを包囲し、アメリカ軍を打ち破ります。

デトロイト砦の陥落は、アメリカ海軍にとって大きな痛手でした。唯一のブリッグ船「アダムズ」も失い、イギリス軍はこれを「HMSデトロイト」と改名しました。しかし、1812年10月、アメリカ軍は「HMSデトロイト」を奪還しようと試み、ブリッグ船「カレドニア」と共に拿捕に成功しました。しかし「デトロイト」は座礁し、焼却処分に。一方、「カレドニア」はアメリカ海軍の艦船として再就役しました。


1813年に入ると、アメリカ軍はプレスク・アイル（現在のエリー市）で新たな艦船の建造を開始します。オリバー・ハザード・ペリー海軍大佐がエリー湖の指揮官に任命され、艦隊の編成を進めました。ペリーは、オンタリオ湖のアメリカ艦隊司令官アイザック・チョウンシー海軍准将から水兵を借り、戦力の増強に努めました。一方、イギリス海軍はロバート・ヘリオット・バークレイ中佐をエリー湖の艦隊司令官に任命。バークレイは、戦力の増強を図るも、物資不足に悩まされました。特にオンタリオ湖を支配するアメリカ軍の存在は、物資輸送に大きな支障をきたしました。また、イギリス軍の陸軍部隊も増援を得られず、プレスク・アイルへの攻撃を断念せざるを得ませんでした。

戦闘の経過

1813年9月10日、両軍の艦隊はオハイオ州沖のプット・イン・ベイ近くで激突しました。当初、風は微風でしたが、やがて風向きが変わり、ペリー率いるアメリカ艦隊が有利な位置を占めました。ペリーは、旗艦「ローレンス」と「ナイアガラ」を先頭に攻撃を仕掛けます。しかし、「ナイアガラ」の動きが鈍く、「ローレンス」は単独で3隻のイギリス艦と戦うことになりました。結果、「ローレンス」は大きな損害を受け、乗組員の多くが死傷しました。

ペリーは旗艦を「ナイアガラ」に移し、態勢を立て直すと、イギリス艦隊への攻撃を再開。「ナイアガラ」の砲撃でイギリス艦隊は大打撃を受け、旗艦「デトロイト」は他のイギリス艦と衝突し航行不能に陥り、降伏。他のイギリス艦も次々と降伏し、アメリカ軍が勝利を収めました。

戦闘の結果

この湖上戦で、アメリカ軍は100名以上の損害を受けましたが、イギリス艦隊を完全に打ち破り、エリー湖の制海権を確立しました。ペリーは勝利を報告する際、「我々は敵艦を捕獲した。そして敵艦は我々のものだ。」という有名な言葉を残しました。

この勝利により、アメリカ軍はデトロイトを奪還し、イギリス軍は撤退を余儀なくされました。さらに、アメリカ軍はテムズの戦いにも勝利し、テカムセ率いるインディアン同盟を壊滅させました。

アメリカ軍は、この後もエリー湖の制海権を維持し続け、1814年のナイアガラ半島での戦いを有利に進めました。

戦後の影響

米英戦争終結後、アメリカ海軍は損傷が激しかった「ローレンス」と「ナイアガラ」をエリー湖に沈めました。その後、「ローレンス」は引き上げられましたが、火災により焼失。「ナイアガラ」は修復され、現在ではペンシルベニア州エリー市で見ることができます。

プット・イン・ベイには「ペリーの勝利および国際平和記念」公園があり、この戦いで戦った兵士たちを讃えています。

また、戦後、ペリーとエリオットの間で、戦闘中の役割について激しい論争が起こりました。イギリス軍のバークレイは軍法会議で無罪となりましたが、怪我の影響で数年間は軍務に復帰できませんでした。

このエリー湖の湖上戦は、海軍兵学校の教授クレイグ・L・サイモンズが著した「海上での決断」の中で、アメリカ海軍の重要な海戦の一つとして挙げられています。

アメリカ海軍勝利の要因

歴史家は、アメリカ海軍の勝利の要因として「優れた重金属」を挙げています。アメリカ軍の大砲は、チェサピーク湾で製造され、困難な状況下でプレスク・アイルまで輸送されました。一方、イギリス軍の大砲や物資は、セントローレンス川を遡り、オンタリオ湖とエリー湖を経由する必要があり、物資輸送が困難でした。

また、アメリカ軍はエリー湖での艦船建造に力を注ぎ、6隻の艦船を完成させましたが、イギリス軍が建造できたのは、1隻のみでした。この戦力差が、アメリカ軍の勝利を決定づけたと考えられています。

交戦した艦船

以下は戦闘に参加した艦船の一覧です。

アメリカ軍

USSローレンス (旗艦)
USSナイアガラ
ブリッグ カレドニア
スクーナー アラート
スクーナー スコーピオン
スクーナー タイグレス
スクーナー サマーズ
スクーナー トリトン
スクーナー ポラール

イギリス軍

HMSデトロイト (旗艦)
HMSクイーンシャーロット
ブリッグ ハンター
スクーナー レディプレボスト
スクーナー チッパワ
* スクーナー リトルベルト

結論

エリー湖の湖上戦は、米英戦争において重要な転換点となった戦いです。この戦いでアメリカ海軍はエリー湖の制海権を確立し、その後の戦局を有利に進めました。この戦いは、アメリカ海軍の歴史において、重要な戦いの一つとして記憶されています。

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