エルゴ球

エルゴ球とは

エルゴ球（英: ergosphere）とは、回転するブラックホールの外側に広がる特別な空間のことを指します。この用語は、古代ギリシア語の「ergon」に由来し、これは「仕事」を意味します。この名前は、エルゴ球がエネルギーや質量を抽出できる可能性があることに由来しています。ジョン・ホイーラーなどの研究者によって名付けられました。

エルゴ球の特性

エルゴ球は、回転するブラックホールの周囲に広がる回転楕円体の形をしています。この領域はブラックホールの自転軸に沿って事象の地平線と接触しています。ここでは、時空がブラックホールの回転方向に引き寄せられており、内部ではまるで光速よりも早く物質が動いているように感じられます。この現象は、「慣性系の引きずり」または「レンズ・ティリング効果」と呼ばれています。エルゴ球内部の物体は、外部の静止した宇宙に対して静止することはできず、物理的には光速を超えて運動する必要がありますが、それは不可能です。このため、エルゴ球内にいる物体は必ず外の宇宙に対して動いているように見えます。

さらに、エルゴ球内部の引きずりの影響により、しばしば負のエネルギーが存在することが示唆されています。

エルゴ球の境界

エルゴ球の外側には「静止限界」という境界があります。この静止限界においては、空間自体が光速で引きずられており、光速で移動する物体が無限遠の宇宙に対して静止することが可能になります。静止限界の外側は引きずられつつも、光速より遅い速度で進行しています。一方、エルゴ球の内側の境界は事象の地平線にあたります。

エネルギーの抽出法

エルゴ球からのエネルギー抽出は非常に興味深い現象であり、事象の地平線よりも外側にある物体は、ブラックホールの回転の恩恵を受け、エネルギーを得て脱出することが可能です。この過程は1969年にロジャー・ペンローズによって考案され、ペンローズ過程と名付けられました。理論によれば、回転するブラックホールから取り出せるエネルギーは最大29%であるとされています。

もし事象の地平線が極めて早い速度で回転していると仮定した場合、ブラックホールの質量の最大29%をエネルギーとして変換できる可能性があります。この観点から、例えば銀河系中心に存在する超大質量ブラックホール（その質量は太陽の約400万倍）から得られるエネルギーの量は、ダイソン球に囲まれた500億の恒星から数十億年以上にわたって得られるエネルギー量に匹敵します。

ブラックホールのエネルギーが完全に抽出された場合、そのブラックホールは回転を失い、エルゴ球も消滅すると考えられています。この過程は、ガンマ線バーストのような高エネルギー現象の起源を説明する手助けになる可能性があります。コンピュータモデルの計算によると、ペンローズ過程はクエーサーや活動的銀河核から観測される高エネルギー粒子の生成にも寄与することが示されています。

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