エルツ城

エルツ城：800年の歴史を刻むライン地方の宝石

ドイツのラインラント＝プファルツ州、モーゼル川沿いのアイフェル山地に佇むエルツ城は、中世の面影を色濃く残す美しいお城です。トリーアとコブレンツの中間地点に位置し、ビュレスハイム城、リッシンゲン城とともに、ライン川左岸に現存する、一度も破壊されたことのない貴重な城の一つとして知られています。ノイシュバンシュタイン城、ホーエンツォレルン城と並び、ドイツ三大美城にも数えられています。

共同相続と城の拡張

エルツ城は、複数の分家によって共同相続された「Ganerbenburg」という珍しい形態の城でした。神聖ローマ帝国では、相続財産を分ける慣習があり、エルツ家も3つの分家に分かれて城を共有・管理していました。それぞれが独立した建物を増築することで、城は複雑で魅力的な複合体へと発展していきました。主要部分は家族の住居として使用され、100室以上もの部屋に約100人が暮らしていたと伝えられています。8つの塔がそびえ立ち、その高さは30～40メートルにも達します。

歴史を刻む建築様式

城の最古の部分であるプラット・エルツは、9世紀に築かれたロマネスク様式の天守閣です。当初は土塁を持つシンプルな荘園でしたが、12世紀にはモーゼル谷とアイフェル地方を結ぶ重要な貿易路沿いに位置することから、神聖ローマ皇帝フリードリヒ1世治世下の帝国にとって重要な拠点となりました。

15世紀には、ルベーナッハ家によって後期ゴシック様式の建物が追加されました。ルベーナッハ家のホールや寝室の華麗な装飾壁は、当時の建築技術の高さを示す貴重な遺産です。その後、15世紀後半から16世紀前半にかけてロドンドルフ家も後期ゴシック様式で増築を行い、城はさらに規模を拡大しました。17世紀初頭にはケムペニッヒ家による増築が行われ、各部屋に暖房設備が設けられるなど、居住性も向上しました。1563年には、エルツ家とロドンドルフ家の結婚により両家が統合されたという歴史もあります。

大同盟戦争と奇跡の生還

17世紀末の大同盟戦争では、ライン地方の多くの城が破壊されました。しかし、エルツ城はフランス軍の上級将校であったハンス・アントン・ツー・エルツ＝ユッティンゲンの尽力により、破壊を免れました。フランス統治下ではコブレンツ司令部の管理下に置かれましたが、その後エルツ家の所有に戻り、1815年にルベーナッハ家の所有部分もエルツ家によって買い取られ、私有城となりました。

19世紀以降の修復と再生

19世紀には、カール・ツー・エルツ伯爵が巨額の費用を投じて大規模な修復工事を実施しました。その費用は現代の貨幣価値で約800万ユーロに相当すると推定されています。しかし、1920年にはケムペニッヒ家の建物で火災が発生し、ケムペニッヒ家だけでなく教会部分やロドンドルフ家の建物にも被害が及ぶ事態となりました。その後、大規模な修復・再建工事が行われ、1930年に完了しています。2009年から2012年にかけても、440万ユーロを投じた大規模な修復工事が行われ、その際ドイツ連邦政府をはじめ、州や財団からの助成金が活用されました。

文化遺産としてのエルツ城

エルツ城は、その歴史的価値から、1977年にはドイツ連邦郵便が発行した普通切手シリーズ「要塞と城」にも選ばれ、ドイツマルク紙幣の図柄にも使用されるなど、広く国民に認知されています。現在も、その美しい姿と歴史的意義から、世界中から多くの観光客が訪れる人気の観光地となっています。

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