トリーア

トリーア：ローマ帝国の遺産と近代文化が融合する歴史都市

ドイツ連邦共和国ラインラント＝プファルツ州に位置するトリーアは、人口約10万人（2005年）の歴史都市です。モーゼル川沿いに栄え、古くから交通の要衝として、またフランス文化圏の影響を強く受けた土地柄から、ドイツワイン発祥の地であり、モーゼルワインの一大生産地としても知られています。北東約95キロにはコブレンツ、西約40キロにはルクセンブルク、さらにフランスのメスにも近い地理的条件にあります。1995年には大洪水の被害を経験しています。公用語はドイツ語ですが、フランス語を話す住民も多く、多様な文化が共存する街です。

古代からの歴史：ローマ帝国の足跡

トリーアの歴史は古く、紀元前16年に建設されたローマ植民市アウグスタ・トレウェロールムにその起源を持ちます。古代にはベルガエ人の同族とされるトレヴェリ人が居住していました。ローマ帝国はトリーアを北ヨーロッパ進出の拠点として重視し、「第二のローマ」と称されるほど発展を遂げました。ローマ人の支配下では、将棋盤状の道路網が整備され、地中海文明がもたらされました。

1世紀初頭には集落が形成され、ゲルマン族の侵入を受けて173～174年には285ヘクタールの居住地を囲む市壁が築かれました。現存するポルタ・ニグラ（黒い城門）は、この頃のものと推定されています。2世紀にはテッラ・シジッラータと呼ばれる陶器の生産が行われ、3世紀後半には司教座が置かれ、その後大司教座に格上げされました。

275年にはフランク族による破壊を受けましたが、コンスタンティヌス大帝らによって再建され、ベルギカの中心地、そしてローマ帝国の皇帝や副帝、僭帝の本拠地として発展しました。アルプス以北最大のローマ帝国都市となり、周壁環内には6万人が暮らしていたと推定されています。トリーアはライン右岸のゲルマーニアに対するローマの攻撃拠点、ガリアの都市化拠点、そして商業の中心地として機能していました。主要な街道が集中し、橋が架けられ、円形劇場や豪壮な住宅が建設され、トリーア人はボルドーやリヨンでも商人として活躍しました。毛織物業は問屋制的に統合された大規模な産業でした。

コンスタンティヌス大帝の時代、トリーアの周壁環は285ヘクタールに及び、4世紀の人口は約6万人でした。326年には宮殿の大広間が取り壊され、その跡地に大聖堂と聖母マリア聖堂が建てられました。ヒエロニムス、アタナシウス、ラクタンティウスといった古代キリスト教の著名人もトリーアを訪れ、その立派な図書館を利用しました。アタナシウスはアリウス派との論争で追放され、トリーアに亡命した際に聖アントニウスの修道制をヨーロッパに広めました。ヒエロニムスはトリーアをケルト語地域として記録しており、トレウェリ族がケルト化していたことがうかがえます。

475年にフランク族に征服され、6世紀初頭にはメロヴィング朝フランク王国に属しました。6～7世紀の人口は数千人に減少しましたが、9世紀には約20の教会や礼拝所が存在していました。その後も宗教施設の建設が続き、様々な教団が修道院などを設立し、1[[4世紀]]にはベギン会の会館も建てられました。882年にはノルマン人の襲撃による荒廃を経験しています。

10世紀からはユダヤ人の居住も確認され、1[[3世紀]]にはシナゴーグなどもありました。1338年頃には0.7ヘクタールの地域に300人以上のユダヤ人が居住し、遠隔貿易や金融業に従事していましたが、1349年の迫害により、ほとんどが市内にいなくなりました。1418年には大司教区からも追放されました。

中世のトリーアの経済活動は、窯業、塩の取引、貨幣の鋳造、ワイン製造などが盛んで、1[[4世紀]]には43基のワイン搾り機があったとされています。当時の人口は約1万人でした。1473年には大司教がトリーア大学を設立し（1798年まで存続）、市もその設立に大きく関わりました。1[[4世紀]]には、トリーア大司教にルクセンブルク家のバルドゥインが就任し、カール4世の神聖ローマ皇帝即位に貢献したことから、トリーア大司教は選帝侯の一人となり、ドイツ国内で強い勢力を持ちました。

観光と文化：ローマ遺跡から現代アートまで

トリーアには、ローマ遺跡群、聖ペテロ大聖堂、聖母聖堂（ユネスコ世界遺産）など、数多くの歴史的建造物が残されています。ポルタ・ニグラや古代ローマ時代の円形劇場、カイザーテルメン（皇帝の大浴場跡）なども重要な観光スポットです。カール・マルクスの生家も有名で、中国からの「レッドツーリズム」の観光客も多く訪れます。2018年のマルクス生誕200周年には、中国政府からマルクス像が寄贈され、除幕式には欧州委員会委員長やドイツ社会民主党党首などが出席しました。

トリーアはモーゼルワインの産地としても有名です。ローマ帝国から伝来したブドウ栽培とワイン醸造技術は、最初は赤ブドウでしたが、痩せた土地に適応するために白ブドウの栽培が盛んになり、それが現在のモーゼルワインへと受け継がれています。

スポーツ：多様なスポーツチーム

トリーアでは、毎年WRCラリー・ドイチェランド（2002～2009年を除く）が開催され、サッカー、バスケットボール、野球など、様々なスポーツが盛んです。SVアイントラハト・トリーアはサッカークラブ、TBBトリーアはバスケットボール・ブンデスリーガ所属チームです。トリーア・カーディナルスは野球チームで、2000年にはドイツマイスター（硬式野球）に輝いています。同チームには、日本人選手も所属しており、リーグのMVPやホームラン王を獲得した選手もいます。

著名な出身者

トリーアには、聖アンブロジウスやカール・マルクスといった著名な出身者がいます。また、ドレイファスやトレヴェスといったユダヤ系の名字もこの街の出身の家系であると言われています。

姉妹都市

トリーアは、フランスのメス、イタリアのアスコリ・ピチェーノ、イギリスのグロスター、オランダのスヘルトーヘンボス、クロアチアのプーラ、アメリカ合衆国のフォートワース、ドイツのヴァイマル、そして日本の長岡市と姉妹都市提携を結んでいます。

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