エルトン君の大冒険

エルトン君の大冒険：ドクター・フーの異色エピソード

2006年6月17日、イギリスの公共放送BBC Oneで放送されたSFドラマ『ドクター・フー』シリーズ2の第10話「エルトン君の大冒険」。ラッセル・T・デイヴィス脚本、ダン・ゼフ監督によるこのエピソードは、シリーズ全体の構成や制作事情、そして視聴者・批評家の反応まで含め、多くの点で特異な存在となっています。

物語の概要

舞台はロンドン。物語の中心は、タイムトラベラーであるドクターとその仲間たちに関心を抱くエルトン・ポープというごく普通の人間です。エルトンは、ドクターに魅せられた人々のグループに加わりますが、その中に潜むヴィクター・ケネディという人物が、実はドクターの肉体と知性を吸収しようとする異星人であることが明らかになります。この異星人は、子どもデザインコンテストの優勝作品を元にデザインされたスイコロリンというモンスターでもあります。

制作の舞台裏

「エルトン君の大冒険」の制作は、クリスマススペシャル「クリスマスの侵略者」の制作スケジュールに起因する特別な事情がありました。制作期間の都合上、このエピソードは「闇の覚醒」と「地獄への扉」という他の2つのエピソードと合わせて、二段構成で制作されることになったのです。これにより、ドクター役のデイヴィッド・テナントとローズ・タイラー役のビリー・パイパーの出演シーンを最小限に抑える必要が生じました。

この制作上の制約から、脚本家のラッセル・T・デイヴィスは、ドクターとローズ以外の登場人物を主役に据えた、実験的なストーリーを考案しました。デイヴィス自身は、『バフィー 〜恋する十字架〜|バフィー_〜恋する十字架〜』や『新スタートレック』のエピソードからインスピレーションを得ており、レギュラーキャラクター以外の視点に焦点を当てたストーリー展開を目指したと語っています。

さらに、このエピソードには、BBCの子供向け番組「Blue Peter」の「ドクター・フーモンスターデザインコンテスト」の優勝作品であるスイコロリンが登場します。このモンスターのデザインは9歳のウィリアム・グランサムによるもので、その独特のビジュアルは、エピソードの重要な要素となっています。ゲスト出演したピーター・ケイの演技も話題となりました。

監督のダン・ゼフは、エピソードのトーンについて、「都会の空間の退廃と、その中で漂流する主人公たちの脆弱さを強調したかった」と述べています。物語の中で使用されているエレクトリック・ライト・オーケストラの楽曲も、独特の雰囲気を演出しています。

連続性と影響

「エルトン君の大冒険」は、以前のエピソード「マネキンウォーズ」、「UFO ロンドンに墜落」、「クリスマスの侵略者」の出来事を回想シーンとして含んでいます。また、スイコロリンが別のモンスターであるスリジーンと関連付けられているなど、『ドクター・フー』シリーズ全体のストーリーラインに微妙に繋がっています。

放送と評価

「エルトン君の大冒険」はイギリスで666万人の視聴者を獲得しました。しかし、その評価は大きく分かれました。脚本の複雑さやユーモアを高く評価する声がある一方で、パロディ的で不快に感じるという意見もありました。特に、ピーター・ケイの演技については賛否両論が巻き起こりました。批評家たちの評価も同様に、高く評価する者と酷評する者が存在しました。

いくつかのメディアでは、このエピソードを最高のSFモキュメンタリーの一つとして高く評価する一方、ケイの演技、モンスターのデザイン、登場人物の設定などを批判する声もありました。視聴者からの反応も同様で、熱狂的なファンから酷評する者まで、多様な意見が見られました。 エピソード内での特定の会話シーン（エルトンとアーシュラの会話）については、家族向け番組としては不適切であるという指摘もありましたが、無害なジョークだと反論する意見もあったりと、議論を呼びました。

総じて「エルトン君の大冒険」は、『ドクター・フー』シリーズの中でも特異なエピソードであり、その制作過程、ストーリー、そして視聴者・批評家の反応は、ドラマの多様な側面を示す重要な事例となっています。様々な要素が絡み合い、独特の味わいを生み出した、まさに実験的なエピソードと言えるでしょう。

もう一度検索