エルニーニョ・南方振動 (ENSO) とは何か?
エルニーニョ・南方振動(ENSO)は、地球規模で起こる大気と海洋の相互作用による自然現象です。
赤道太平洋の海面水温が通常と比べて高くなる「エルニーニョ現象」と、逆に低くなる「ラニーニャ現象」は、ENSOの振動の両端にあたります。
ENSOでは、
赤道太平洋の海面水温と、
インドネシア付近と南
太平洋東部の
気圧がシーソーのように連動して変化します。一方が平年より高いと、他方は低くなる傾向があります。これらの変動は数か月から数年続き、世界中の天候に大きな影響を与えます。
当初、大気現象である「南方振動」と、海洋現象である「エルニーニョ現象」は別々に研究されていましたが、両者の密接な関係が明らかになり、ENSOという概念が生まれました。ENSOは、大気と海洋が連動する現象の代表例であり、その影響は遠く離れた地域にまで及ぶ
テレコネクションの典型でもあります。
エルニーニョ現象
エルニーニョ現象は、中部・東部
太平洋の
赤道付近で、海水温が1年以上上昇する現象です。元々は、
ペルーと
エクアドル沖で
クリスマス頃に起こる海水温の上昇現象を指し、「エルニーニョ(El Niño)」とは
スペイン語で「神の子」を意味します。
通常、この海域では
ペルー海流という寒流の影響で海水温が低く保たれていますが、エルニーニョ時には
貿易風が弱まり、暖かい海水が東
太平洋に流れ込むため、海水温が上昇します。
エルニーニョ現象は、海面水温の変化から始まり、大気温度、
気圧の変化を招き、大気の流れを変えて世界中に影響を及ぼします。具体的には、通常は西
太平洋に偏っている暖かい海水が東
太平洋に移動することで、
ウォーカー循環と呼ばれる
大気循環が変化します。この変化は、ロスビー波などの伝播を通じて低緯度から高緯度にかけて波及し、様々な
異常気象を引き起こします。
日本においては、エルニーニョ現象が発生すると、夏は
冷夏で梅雨の長雨、冬は暖冬になりやすい傾向があります。
ラニーニャ現象
ラニーニャ現象は、エルニーニョ現象の反対で、東
太平洋赤道付近の海水温が低下する現象です。
スペイン語で「女の子」を意味し、「エルニーニョ」の反対として「ラニーニャ」と呼ばれるようになりました。
ラニーニャ時は、東
太平洋赤道域で冷たい海水の
湧昇が強まり、海水温が低下します。エルニーニョ時とは逆に、世界中に影響を及ぼし、
異常気象の原因となります。例えば、エルニーニョで多雨となるアマゾン地域では、ラニーニャ時には少雨・干ばつとなる傾向があります。ただし、発生域である
太平洋赤道域以外の地域では、必ずしもエルニーニョ時と逆の気象現象が起こるとは限りません。
エルニーニョとラニーニャの違い
エルニーニョとラニーニャは表裏一体の関係ですが、いくつかの違いがあります。
ラニーニャによる海水温低下は、エルニーニョによる上昇ほど顕著ではありません。
エルニーニョの後にはラニーニャが現れることが多い一方、ラニーニャは2~3年と長期にわたって持続することがあります。
ENSOの監視と予測
ENSOの監視には、海上観測や衛星観測データが利用されます。世界の気象機関は、いくつかの海域(NINO海域など)の海水温を指標として監視しています。また、南方振動指数(SOI)や
赤道東西風指数なども、ENSOの状況を示す指標として用いられます。
これらの指標を監視し、
気候モデルを用いた予測を行うことで、数週間から数か月先の天候予測を行うことができます。しかし、ENSOの発生の根本的な原因は未だ解明されておらず、予測の精度向上は重要な課題となっています。
ENSOの発見と研究の歴史
ENSOの研究は、
ギルバート・ウォーカーによる南方振動の発見(1928年)、ロバート・マーフィーによるエルニーニョ現象の広範な調査(1925-1926年)、そしてヘンドリック・ベルラーヘによる両者の関連性の発見(
1957年)を経て発展しました。ヤコブ・ビヤクネスは、ENSOのメカニズムを解明し、「
ウォーカー循環」という用語を提唱しました。
ENSOに類似した現象
ENSO以外にも、大西洋ニーニョ、
ダイポールモード現象、カリフォルニア・ニーニョ/ニーニャ現象など、類似の現象が知られています。これらの現象も、世界中の天候に影響を与えます。
ENSOの影響
ENSOは世界中の天候に大きな影響を与え、
異常気象の原因となります。また、最近では、ENSOと戦争の発生頻度との関連性も指摘されています。
まとめ
ENSOは、地球規模で起こる複雑な自然現象であり、そのメカニズムの全容解明には至っていませんが、世界中の気象に大きな影響を与える重要な現象です。今後も、観測技術の向上や
気候モデルの高度化により、ENSOの予測精度向上を目指した研究が続けられています。