エルネスト・アルフテル

エルネスト・アルフテル・エスクリチェ（Ernesto Halffter Escriche）は、1905年1月16日にスペインの首都マドリードで生まれた作曲家です。1989年7月5日に同じくマドリードでその生涯を閉じました。

彼の家族背景は国際的であり、父はドイツのケーニヒスベルク出身、母はスペインのカタルーニャ地方の出身でした。アルフテル家は音楽家を多く輩出しており、兄のロドルフォ・アルフテル、そして甥のクリストバル・アルフテルもまたスペイン近代音楽史において重要な位置を占める作曲家として知られています。

幼い頃から音楽への強い関心を示し、13歳という若さで作曲を開始しました。特に彼にとって決定的な転機となったのは、自作のピアノ三重奏曲を当時スペイン楽壇の巨匠であったマヌエル・デ・ファリャに送ったことでした。ファリャはこの若き才能を認め、以後エルネストは長年にわたりファリャに師事し、その指導のもとで作曲家としての才能を開花させていきました。師との緊密な関係は、その後の彼の音楽活動に大きな影響を与えています。

キャリアは順調に進み、1934年にはセビリア音楽院の教授に就任するなど、教育者としても活動しました。しかし、スペイン内戦が勃発すると情勢を避けるため、ポルトガル出身のピアニストであった妻とともに隣国ポルトガルのリスボンへ移住することを余儀なくされました。リスボンでの居住は比較的長く、1954年まで続きました。この期間も作曲活動を続け、異国の地で自身の音楽を深化させました。その後、スペインへ帰国し、再びマドリードを拠点に活動を行いました。

彼の音楽性は、スペイン固有の民族的な旋律やリズムを取り入れた国民楽派の伝統を基盤としつつ、簡潔で均衡の取れた形式やクリアな響きを特徴とする新古典主義音楽の要素を巧みに融合させた独自のスタイルを持っています。兄ロドルフォらと共に、当時のスペインで新しい音楽を創造しようとする気運の中で、「スペイン8人組」と呼ばれる作曲家グループを結成しました。これは、フランスの有名な作曲家集団「フランス6人組」に触発されたものであり、新しい表現を追求する彼らの姿勢を示しています。

代表的な作品としては、管弦楽のための『シンフォニエッタ』や、ピアノ曲の『ソナチナ』などがあり、これらは彼の作風をよく表しています。また、エルネスト・アルフテルの業績の中で特筆すべきは、師マヌエル・デ・ファリャが未完のまま遺した大作、カンタータ『アトランティーダ』の補筆完成です。師の遺志を継ぐという重大な責任を担い、この壮大な作品の完成に取り組み、1962年にその初演を実現させました。さらに、その後も作品に磨きをかけ、1976年には改訂された第2版が上演されるなど、師の音楽遺産を後世に伝える上で極めて重要な役割を果たしました。

コンサート作品だけでなく、映画音楽の分野でも活躍し、12本もの映画のためにスコアを作曲しています。このようにエルネスト・アルフテルは、多岐にわたる活動を通じて、20世紀のスペイン音楽において重要な足跡を残した作曲家の一人と言えるでしょう。特に、ファリャとの師弟関係、そして師の未完作品を見事に完成させた功績は、彼の音楽家人生の中でも最も輝かしい部分として記憶されています。

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