エルム・ファーム・オーリー

エルム・ファーム・オーリー、通称ネリー・ジェイ、そして飛行後は「空の女王」の名で親しまれたこの牝牛は、1930年2月18日に世界で初めて飛行機に乗った牛として知られています。この歴史的な出来事は、ミズーリ州ビスマークからセントルイスまでの72マイルを、セントルイス国際航空博覧会のイベントの一環として飛行した際に起こりました。

飛行の主な目的は、家畜が空を飛ぶことによる影響を科学的に調査すること、そして大衆への宣伝効果を狙ったものでした。セントルイスの地元新聞は、この試みを「家畜の空輸における貴重な実験の成功」と高く評価しました。

オーリーはガーンジー種という種類の牛で、乳の生産量が多く、1日に3回の搾乳が可能でした。飛行中には24クォートもの牛乳が搾乳され、この搾乳を行ったのはウィスコンシン州の住民、エルスワース・W・バンスでした。搾乳された牛乳は空中で紙パックに詰められ、パラシュートを使って地上の見物人たちに届けられました。伝説によれば、有名な飛行家チャールズ・リンドバーグもこの空輸された牛乳を味わったと言われています。

エルム・ファーム・オーリーはミズーリ州ビスマークで生まれ育ちましたが、彼女の名声は酪農が盛んなウィスコンシン州で特に強く残っています。同州のマウント・ホレブにある国立マスタード博物館では、毎年2月18日に彼女を称えるお祭りが開催されています。この事実は、彼女の空を飛んだ冒険が、今日に至るまで多くの人々に記憶されている証と言えるでしょう。

ただし、飛行機で運ばれた牛の記録としては、エルム・ファーム・オーリーが最初ではありません。1924年7月9日には、ニコ5世という名前の牡牛が、KLMオランダ航空のフォッカーFIII型機によってロッテルダムからパリまで輸送されたという記録が存在します。しかし、エルム・ファーム・オーリーのように、飛行中に搾乳が行われ、その牛乳が人々に届けられたという記録は他にありません。彼女の物語は、単なる輸送記録を超え、人々に夢と希望を与える象徴的な出来事として語り継がれています。

エルム・ファーム・オーリーの飛行は、当時の航空技術の進歩と酪農の可能性を結びつけた画期的な出来事でした。彼女の勇気ある飛行は、科学的な探求心を刺激し、人々に新たな視点を与えたと言えるでしょう。空を飛んだ牛、エルム・ファーム・オーリー。彼女の名前は、これからも長く人々の記憶に残ることでしょう。

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