エルンスト・テールマン

エルンスト・テールマン：ヴァイマル共和政期の共産主義指導者

エルンスト・テールマン (1886-1944) は、ヴァイマル共和政時代のドイツにおいて、ドイツ共産党 (KPD) を率いた重要な政治家です。小学校卒業という経歴ながら、持ち前のカリスマ性とコミンテルン、特にスターリンへの忠誠心によって党内での地位を着実に高めていきました。彼の指導の下、KPDはスターリン主義的な独裁体制を確立し、激しい党内抗争とナチスとの対立を経験することになります。

労働者から共産党指導者へ

テールマンはハンブルクの貧しい労働者家庭に生まれました。青年期は港湾労働者や造船所労働者など様々な職を転々とし、ドイツ社会民主党 (SPD) に入党した後、第一次世界大戦に従軍。戦後、独立社会民主党 (USPD) を経て、コミンテルンに接近したKPDへと合流しました。当初は党内左派の一員として、ブランドラー派の「統一戦線戦術」を批判。しかし、1923年の武装蜂起失敗後、彼は次第に党内での影響力を拡大していきます。

党内闘争とスターリンへの忠誠

テールマンの台頭は、KPD内部の激しい党内闘争と密接に関係しています。彼はルート・フィッシャーやアルカディ・マズローら左派と連携しながら、ブランドラー派との権力闘争を繰り広げます。この過程で、スターリンはドイツ共産党内の権力バランスに介入し、1925年にフィッシャーが失脚した後に、テールマンを党議長に据えました。テールマンはスターリンへの絶対的な忠誠を示し、スターリンの指示に従い、党内右派や調停派を徹底的に粛清。1928年の「ウィトルフ事件」は、この粛清の過程における象徴的な出来事と言えます。この事件において、スターリンはテールマンを擁護し、党内における彼の独裁的支配を確固たるものにしました。

ナチスとの対立と逮捕

1920年代後半から1930年代にかけて、テールマン率いるKPDは「社会ファシズム論」に基づき、SPDを主敵として激しい闘争を展開。ナチ党 (NSDAP) との衝突も頻発しました。1930年の選挙ではKPDは大躍進を果たし、ナチ党に次ぐ勢力となりましたが、この成功は一時的なものでした。1933年、ナチスが政権を掌握すると、テールマンは逮捕され、その後、ブーヘンヴァルト強制収容所で殺害されます。

スターリンとの複雑な関係

テールマンはスターリンに絶対的な忠誠を誓いましたが、その関係は常に複雑でした。スターリンはドイツ共産党を完全に支配下に置くため、テールマンを利用しました。しかし、1939年の独ソ不可侵条約締結後、スターリンはテールマンを見捨て、彼の釈放には一切動こうとしませんでした。これは、スターリンが権力維持のためには道具として利用した人物さえも容易に切り捨てることを示しています。

テールマン像の変遷

テールマンは生前、党内左派からも批判されており、無学で理論的訓練を欠いた人物と評されていました。しかし、戦後、東ドイツではナチス犠牲者として顕彰され、多くの施設の名称などに彼の名が冠されました。これは、東ドイツ政府による共産主義イデオロギーの宣伝の一環として行われたものです。

結論

エルンスト・テールマンの生涯は、ヴァイマル共和政期ドイツの混乱と激動、そして国際共産主義運動の複雑な内情を映し出す鏡です。スターリン主義的な独裁体制、党内抗争、ナチスとの対立、そしてスターリンとの複雑な関係。彼の波乱に満ちた人生は、歴史の転換期における個人の運命とイデオロギーの抑圧という大きなテーマを私たちに突きつけます。彼の功績と責任、そしてその後の歴史的評価は、現在もなお議論を呼んでいます。

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