エルンスト・トッホ

エルンスト・トッホ：亡命と創造の軌跡を辿る作曲家

エルンスト・トッホ（Ernst Toch, 1887年12月7日 - 1964年10月1日）は、20世紀前半の音楽界において、その多才さと革新性で際立ったオーストリアの作曲家です。ウィーンで生まれ、独学で作曲の道を切り開いた彼は、後期ロマン派の豊かな響きを基盤に、モダニズムの新たな表現を取り入れ、独自の音楽世界を築き上げました。

若き才能の開花と音楽への献身

トッホはウィーン大学で哲学、ハイデルベルク大学で医学を学びながら、作曲家としての才能を開花させました。1909年、室内交響曲ヘ長調がフランクフルト・アム・マインで初演され、モーツァルト賞を受賞したことを機に、作曲に専念することを決意。翌年にはメンデルスゾーン賞も受賞し、その才能は広く認められるようになりました。1913年にはマンハイム音楽大学の作曲とピアノ講師に就任し、後進の指導にもあたりました。

戦争、亡命、そして新たな創造

第一次世界大戦ではイタリア戦線に配属されますが、終戦後はマンハイムに戻り、新しい音楽のスタイルを模索します。ヴァイマル共和政時代には、その前衛的な作風からアヴァンギャルドの作曲家とみなされるようになりますが、ユダヤ系であったことが災いし、ナチスの台頭とともに苦難の道を歩むことになります。

ナチスによって「退廃音楽」のレッテルを貼られたトッホは、多くの芸術家と同様にアメリカへ亡命。ナチスは退廃音楽展においてトッホをベルクやシュレーカーとともに『文化ボリシェヴィキ』として中傷しました。アメリカでは南カリフォルニア大学で教鞭を執る傍ら、ハリウッドで映画音楽の作曲も手がけ、生計を立てました。第二次世界大戦後もアメリカに留まり、1964年にサンタモニカで生涯を閉じました。彼の遺体は、ロサンゼルスのウエストウッド・メモリアルパークに埋葬されています。

多様な作品群とピューリッツァー賞

トッホの作品は、交響曲、室内楽曲、オペラ、映画音楽など多岐にわたります。特に、1955年にピッツバーグ交響楽団によって初演された交響曲第3番は、その卓越した音楽性で高く評価され、ピューリッツァー賞を受賞しました。その他、オペラ「豆つぶの上のおひめさま」や、管弦楽曲「ビッグ・ベン」、「ピノッキオ−楽しい序曲」など、多くの作品が今日でも演奏されています。

主要作品リスト

オペラ:
豆つぶの上のおひめさま（1927）
エゴンとエミリー（1928）
扇子（1930）
The Last Tale （1962）
管弦楽:
室内交響曲（1906）
舞踏組曲（1923）
チェロ協奏曲（1924）
ピアノ協奏曲（1926）
ピアノとオーケストラのための交響曲（1934）
ビッグ・ベン（1935）
ピノッキオ−楽しい序曲（1935）
交響曲第1番（1950）
交響曲第2番（1951）
交響曲第3番（1955）
交響曲第4番（オーケストラと話者のための）（1957）
交響曲第5番『イェフタ』（1963）
交響曲第6番（1963）
交響曲第7番（1964）
室内楽:
弦楽四重奏曲第1番～第13番（1902-1954）
ヴァイオリンソナタ（1928）
チェロソナタ（1929）
ピアノ曲:
バーレスク（1923）
ピアノソナタ（1928）
声楽曲:
中国の笛（1921, 改訂1949）（マーラーの大地の歌と同じく、ハンス・ベートゲの同名の翻訳詩集に基づく連作歌曲）
映画音楽:
女帝キャサリン（1934）
ドン・ファン（1934）
永遠に愛せよ（1935）
猫とカナリヤ（1939）
ドクター・サイクロプス（1940）
ゴースト・ブレーカーズ（1940）
生きてる死骸（1941）
ナチに愛された女（1943）

音楽史におけるエルンスト・トッホ

エルンスト・トッホは、激動の時代を生き抜き、亡命という困難を乗り越えながら、多様なジャンルで優れた作品を残しました。彼の音楽は、後期ロマン派の伝統を受け継ぎつつも、新しい音楽語法を積極的に取り入れた、革新的なものでした。ナチスの迫害によって一時的に忘れ去られかけたものの、近年再評価の機運が高まっており、その作品は、20世紀音楽の重要な遺産として、今後ますます多くの人々に聴かれることでしょう。

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