エレジー (フォーレ)

エレジー ハ短調 作品24

フランスの作曲家ガブリエル・フォーレによって1880年に生み出された『エレジー ハ短調 作品24』は、当初チェロ独奏とピアノのための楽曲として着想されました。この作品は、フォーレが同時期に作曲を開始したものの、最終的に完成に至らなかったチェロソナタの一部として、その緩徐楽章にあたる位置づけで構想されたものです。完成された単楽章の楽曲として、チェロの重要なレパートリーの一つとなっています。

成立と発表

オリジナルであるチェロとピアノのための版は、1883年に出版されました。この版の初演は、フランスの著名なチェリスト、ジュール・レープによって行われ、楽譜も彼に献呈されています。レープはこの曲の魅力を早くから認識し、演奏活動を通じて普及に貢献したと考えられます。

その後、1890年には、当時の著名な指揮者であったエドゥアール・コロンヌからの要請に応じる形で、フォーレ自身の手により管弦楽伴奏版への編曲が施されました。このオーケストラ伴奏版は、オリジナル版から遅れて1901年に出版されました。初演は、20世紀を代表するチェリストの一人であるパブロ・カザルスがチェロ独奏を務め、作曲者フォーレ自身が指揮するという形で実現しました。この初演は、作品の持つ深遠な表現力を多くの聴衆に知らしめる機会となりました。

楽器編成（管弦楽伴奏版）

管弦楽伴奏版における楽器編成は以下の通りです。

フルート 2
オーボエ 2
クラリネット 2
バスーン 2
ホルン 4
チェロ独奏
* 弦楽合奏

ピアノ伴奏版と比較して、より豊かな響きと色彩感を持って作品の感情表現を深めています。

楽曲の構成と特徴

本作はハ短調で書かれており、「Molto Adagio（非常に遅く）」という速度標語が付けられています。形式としては三部形式（A-B-A'）をとっています。

A部：冒頭はチェロによって提示される主題で始まります。この主題は物悲しく、厳粛な雰囲気を湛えており、聴く者に深い哀愁を感じさせます。低音域から中音域にかけて奏でられる旋律は、フォーレらしい繊細さと同時に、どこか諦念にも似た響きを持っています。伴奏楽器（ピアノまたは管弦楽）は、この旋律を支え、楽曲全体の沈痛な雰囲気を醸成します。

B部：中間部は、主要主題とは対照的な、より情熱的でドラマティックな楽想が展開します。速度がやや速まり、リズムも活動的になります。この部分は、しばしば「恋の絶望」を象徴すると解釈され、緊密な対位法的な動きや、感情の起伏を伴うメロディーが特徴です。濃密な和声と激しい表現は、クライマックスへと向かう推進力を生み出します。この中間部こそが、単なる悲歌に留まらない、この「エレジー」のドラマ性を際立たせています。

A'部：再び冒頭の主題が回帰します。しかし、全く同じ形ではなく、変化を伴って再現されるのが一般的です。再現部は静けさを取り戻し、冒頭の悲哀が再び前面に出ますが、中間部での情熱的な経験を経て、より深い内省や諦めといったニュアンスを帯びることもあります。コーダでは、静かに消え入るように曲が閉じられ、余韻を残します。

この『エレジー』は、フォーレの初期から中期にかけての作風を示しており、古典的な形式の中に、彼独自の抒情性と洗練された和声感覚が融合しています。チェロの持つ温かく、そして表現力豊かな音色を最大限に活かしたこの楽曲は、今なお世界中のチェリストや音楽愛好家から愛されています。

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