エレニ・パレオロギナ

エレニ・パレオロギナ：キプロス王妃の生涯

エレニ・パレオロギナ（1428年 - 1458年）は、東ローマ帝国パレオロゴス王朝の皇女であり、キプロス王ジャン2世の妃として知られています。彼女の生涯は、宮廷内の権力闘争、文化的な影響、そして政治的な決断に彩られています。

生い立ちと結婚

エレニは、東ローマ皇帝ヨハネス8世の弟であるモレアス専制公テオドロス2世と、ペーザロ領主マラテスタ家のクレオーファの間に生まれました。5歳で母を亡くし、父はモレア防衛に奔走したため、再婚することはありませんでした。

1442年、14歳のエレニはキプロス王ジャン2世と結婚しました。ジャン2世にとっては再婚であり、10歳年上の夫との結婚生活が始まりました。この結婚は、キプロス王国と東ローマ帝国の関係を深める役割も果たしました。

宮廷での権力闘争

結婚後、エレニは夫の愛妾マリエット・ド・パトラの鼻を削がせたと伝えられています。マリエットはジャン2世の庶子ジャックを産んでおり、エレニにとってジャックは敵対勢力となりました。エレニとジャックは、ジャン2世への影響力を巡って激しく争いました。

ジャン2世がジャックをニコシア大司教に任命したことにエレニは激怒し、ジャックが侍従を殺害した際には大司教職を解任させました。しかし、ジャン2世は後にジャックを赦免し、大司教職に復帰させました。この一件からも、エレニとジャックの対立が激しいものであったことがうかがえます。

文化的な貢献と亡命者支援

エレニは、キプロス宮廷にギリシア人の随員を連れてきたことで、ギリシア文化の影響力を復活させました。これは、キプロス王国と東ローマ帝国の新たな同盟関係を築く上で重要な役割を果たしました。

1453年にコンスタンティノープルが陥落すると、エレニは多くのギリシア人亡命者をキプロス島に受け入れ、経済的な支援を行いました。彼女の行動は、多くの亡命者にとって希望の光となり、キプロス島が新たな避難場所としての役割を果たすこととなりました。

政治的な手腕と最期

エレニは、「夫君よりも強固な性格の持ち主」と評されるほど、政治的な手腕に長けていました。彼女は王国の実権を握り、正教の信仰やギリシア文化を広めようとしましたが、フランク人の反発を招きました。しかし、エレニの権勢は非常に強く、反対派も手出しができませんでした。

教皇ピウス2世は、エレニが正教勢力を拡大しようとしていることや、コンスタンティノープルの修道院に多額の寄付をしていたことを批判しましたが、ギリシア系のキプロス人たちは、彼女の強靭さと決断力を称賛し、崇拝しました。

1457年、エレニは娘婿であるアンティオキア公ジョアンを毒殺しました。ジョアンがキプロス国内のカトリック勢力を支援したことが、エレニの怒りを買ったためです。また、エレニは娘の新たな結婚相手として、ジュネーヴ伯ルイ・ド・サヴォワを望んでいました。

エレニは1458年4月、夫の庶子ジャックが起こした反乱の最中にニコシア城砦で亡くなりました。彼女の死後、夫のジャン2世も3か月後に亡くなり、長女のシャルロットが王位を継承しました。

エレニ・パレオロギナは、その残忍な一面と政治的な手腕、文化的な貢献によって、キプロス王国の歴史に名を刻んだ女性でした。彼女の生涯は、中世の宮廷における権力闘争と文化交流の複雑さを物語っています。

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