エレン・スワロウ・リチャーズ

エレン・スワロウ・リチャーズ：化学と家政学のパイオニア

エレン・スワロウ・リチャーズ（1842-1911年）は、アメリカの化学者であり、その業績は科学のみならず、社会にも大きな影響を与えました。彼女は、アメリカで最初の女性職業化学者とされており、水質検査基準の確立、学校給食制度の改善、そして家政学という学問分野の創設に貢献した人物です。

困難な道のりからの出発

1842年、マサチューセッツ州で生まれたリチャーズは、16歳まで家庭で教育を受けました。大学進学を志した彼女は、自ら資金を貯え、26歳でヴァッサー大学に入学。同大学で教鞭を執っていた天文学者、マリア・ミッチェルの影響を受けますが、天文学の道ではなく、化学を通して社会貢献をしたいという強い思いから化学を専攻します。

MITでの挑戦と女性科学への貢献

ヴァッサー大学卒業後、リチャーズは1871年、女性として初めてマサチューセッツ工科大学（MIT）に入学します。特別生として学費免除での入学でしたが、これは、彼女が正規の学生ではないという建前で、評議員や学生からの反発を回避するための措置でした。しかし、リチャーズ自身は、学長の配慮によるものと考えていました。

MIT卒業後、彼女は鉱物学者のロバート・ハロウェル・リチャーズと結婚。その後、他の女性たちの科学研究の機会創出に尽力し、1876年にはMITに世界最初の女性科学研究所である女子実験室の開設に貢献しました。リチャーズは、女子実験室の助手として、そこで学ぶ女性たちの教育とサポートに尽力します。1878年には女子実験室は改組され、女性も男性と同様にMITの正規学生として入学できるようになりました。

水質分析と衛生化学への貢献

1884年、MITに新しい研究所が開設されると、リチャーズは衛生化学を担当。1887年には、マサチューセッツ州の上下水の包括的分析調査に着手し、約4万件ものサンプルを分析。その成果は、世界初の水質純度表の規準となる「正常塩素量地図」の作成につながりました。この業績は、日本を含む多くの国々で広く認識されていませんでしたが、水質管理に大きな影響を与えたことは間違いありません。

女性教育と家政学の発展

リチャーズは、女性教育機会の拡大にも尽力しました。マリオン・タルボットと共に、大学女子卒業生の会（後の米国大学女性協会）を設立。また、家庭学習を奨励する会において科学分野を担当し、女性のための通信教育に貢献しました。

彼女は、低所得者層の栄養改善を目指した「ニューイングランド・キッチン」やシカゴ万国博覧会での「ランフォード・キッチン」の開設を通して、栄養教育の啓発や、合理的な調理方法の普及にも取り組んでいます。

さらに、図書館学者のメルヴィル・デューイと共に、家政学に関する会議「レイク・プラシッド会議」を組織。この会議は米国家政学会設立につながり、リチャーズは初代会長に選出されました。

晩年と遺産

晩年には『Euthenics: the science of controllable environment』（邦訳『ユーセニクス：制御可能な環境の科学』）を著し、環境調和的文化の創造とユーセニクス（優生学）の普及に尽力しました。

1911年に亡くなったリチャーズの自宅は、1992年に国定歴史建造物に指定されました。彼女の業績は、科学、教育、社会福祉の分野に多大な影響を与え、現代社会にも大きな示唆を与え続けています。彼女の生涯と研究は、女性が科学や社会において活躍するための道を切り開いた重要な事例であり、その功績は高く評価されるべきです。数々の著作も残しており、それらは現在も研究者や教育者にとって貴重な資料となっています。

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