エンスタタイト・コンドライト

エンスタタイト・コンドライト：太陽系形成の謎を解く鍵

地球に落下する石質隕石の中で、エンスタタイト・コンドライトは非常に珍しい存在です。全体のわずか2％程度しかありません。この隕石の最大の特徴は、その主要構成鉱物が頑火輝石（エンスタタイト）であることです。この鉱物から、このタイプの隕石はエンスタタイト・コンドライトと名付けられました。

エンスタタイト・コンドライトは、地球とは異なる、非常に還元的な環境で形成されたと考えられています。そのため、一般的な鉄の酸化物をほとんど含まず、鉄は金属鉄（Fe-Ni合金）や硫化鉄の形で存在します。さらに、地球上では見られない鉱物が数多く含まれていることも大きな特徴です。オルダマイト(CaS)、[ニニンジャライト]、ペリライト(鉄、ニッケルのケイ素化合物)といった硫化物は、エンスタタイト・コンドライトのみに見られる特徴的な鉱物です。他にも、djerfisheriteやcaswellsilveriteといったアルカリ金属の硫化物が含まれることも知られています。これらの希少な鉱物は、太陽系初期の特殊な環境を反映していると考えられています。

酸素の同位体分析の結果から、エンスタタイト・コンドライトは、他のタイプの隕石である普通コンドライトと炭素質コンドライトの中間的な存在であることがわかっています。興味深いことに、その酸素同位体の組成は、地球や月の岩石にも近い特徴を示しています。この事実は、エンスタタイト・コンドライトの起源と、地球や月の形成過程との関連性を示唆する重要な手がかりです。

多くのエンスタタイト・コンドライトは、その母天体において熱変成を受けています。これは、母天体が形成後、内部で加熱される現象を示しており、その過程で鉱物の組成や組織が変化したと考えられています。

エンスタタイト・コンドライトは、金属成分の比率に基づいて、EH型とEL型に分類されます。EH型は鉄の含有量が多く約29％であるのに対し、EL型は約22％とやや少ないです。しかし、これらの異なるタイプは、同じ母天体で形成された可能性が高いと考えられています。これは、母天体内部の様々な条件下で形成された様々な種類のエンスタタイト・コンドライトが、その後地球へ落下してきたという事を意味しています。

エイビー隕石は、エンスタタイト・コンドライトの代表例としてよく知られています。この隕石の分析から得られた情報は、エンスタタイト・コンドライトの起源や進化を理解する上で重要な役割を果たしてきました。

このように、エンスタタイト・コンドライトは、その希少性と特異な組成から、太陽系初期の環境や地球・月の形成過程を理解する上で、非常に貴重な情報源となっています。今後の研究により、さらに多くの謎が解き明かされることが期待されます。

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