エンタープライズアーキテクチャ

エンタープライズアーキテクチャ（EA）とは

エンタープライズアーキテクチャ（EA）は、組織の構造と動作を包括的に記述するフレームワークです。これは、組織を構成する要素（事業エンティティ）、それらの要素の特性、およびそれらの間の関係性を詳細に定義します。EAは、組織の目標、プロセス、役割、構造、情報、ソフトウェア、システムなど、あらゆる側面を網羅します。この包括的な視点を通じて、組織全体の最適化、効率化、および戦略的な意思決定を支援します。

EAのスコープ

「エンタープライズ」という用語は、その適用範囲の広さを示しています。EAは、以下のような様々な組織や状況に適用可能です。

公共および民間セクター組織
企業全体、または事業部門のような大きな組織の一部
ジョイントベンチャーやパートナーシップのような複数組織の集合体
複数のアウトソーシングされた事業運営

「エンタープライズ」は、人、情報、技術などを含む複合的な社会技術システムを指します。EAを策定する最初のステップとして、対象となる組織の境界や範囲を明確に定義することが重要です。EAにおける「エンタープライズ」は、単に情報システムだけでなく、より広範な意味を持つことに留意する必要があります。

方法とフレームワーク

EAは、組織の構造と動態を理解し、記述するために、さまざまな手法、分析技術、概念的なツールを使用します。その結果として、リスト、図、ドキュメント、モデルなどの成果物が生成されます。これらの成果物は、組織内の事業機能、能力、プロセス、人材組織、情報資源、事業システム、ソフトウェアアプリケーション、コンピューティング能力、情報交換、コミュニケーションインフラなどを記述します。EAの実践者は、これらの成果物の集合体を「エンタープライズレベルのアーキテクチャ記述」とみなします。

英国国立コンピューティングセンターのEAベストプラクティスガイドラインでは、EAを「組織の構造と機能を記述するモデルの包括的なセット」と定義しており、個々のモデルは、組織の目的、プロセス、システム、データ、技術など、さまざまなレベルの詳細さを論理的に整合させることを指摘しています。

The Open Group Architecture Framework (TOGAF)など、いくつかのEAフレームワークも同様の定義を採用しています。これらのフレームワークは、特定の組織のアーキテクチャ記述を作成するためのツール、技術、成果物、プロセスモデル、参照モデル、およびガイダンスを提供します。

実践の領域

EAの実践は、いくつかの領域またはアーキテクチャドメインに分割されることがあります。例えば、Spewakは、ビジネスモデリング、既存システムと技術、データアーキテクチャ、アプリケーションアーキテクチャ、情報アーキテクチャなどのドメインに分割することを提唱しました。戦略的なアーキテクチャモデルは、組織の目的からプロジェクト、ソフトウェア、技術まで、10のドメインに柔軟に分割することができます。

EAのドメインは、環境属性に基づいた論理的なグループ化によって分類されます。複数のドメインに分割することで、組織を様々な観点から記述することが可能になり、専門知識や知識の活用を促進し、EAの全体的な記述を確実にします。

一般的に、最も共通の4つのドメインとその要素は次のとおりです。

ビジネス: 戦略マップ、目標、企業ポリシー、運用モデル、機能分割、事業プロセス、ワークフロー、ルール、組織サイクル、ハードウェア、ソフトウェア、サービスサプライヤーなど
情報: 情報アーキテクチャ、データアーキテクチャ、マスターデータ管理、メタデータ、ビジネスインテリジェンス分析とレポート、データ品質、データモデル、データライフサイクル管理プロセスなど
アプリケーション: ソフトウェアアプリケーションのインベントリとダイアグラム、API、イベント、メッセージなど
技術: アプリケーション間の仲介、アプリケーション実行環境と運用フレームワーク、ハードウェア、プラットフォーム、ホスト、LAN、WAN、インターネット接続図、イントラネット、エクストラネット、インターネット、電子商取引、電子データ交換、オペレーティングシステム、情報インフラソフトウェア、データベース管理システム、プログラミング言語など

EAの利用

EAの記述の主な目的は、組織の有効性と効率性を改善することです。これには、組織構造、事業プロセスの集約、事業情報の品質、情報技術への投資の妥当性確認などが含まれます。TOGAFフレームワークでは、アーキテクチャビジョン（将来のあるべき姿を示す記述）を開発し、現在の状況から目標状態への変化のプロセスを描くための移行アーキテクチャを設定する方法が説明されています。

EA利用の成長

EAの文書化は、米国連邦政府のような組織の資金計画と投資統制プロセスにおいても実施されています。また、インテル、フォルクスワーゲン、独立ブルークロス、インターコンチネンタルホテルズグループなど、多くの企業が事業パフォーマンスと生産性の向上を目的としてEAを適用しています。

他の専門分野との関係

EAは、組織における情報技術ガバナンスの主要な要素であり、IT管理戦略の一環として公式に実装されています。EAは、ビジネスアーキテクチャ、パフォーマンス管理、プロセスアーキテクチャなどの幅広い最適化活動に関連しており、ITに限定されるものではありません。EAチームは、組織によっては、パフォーマンスエンジニアリング、ITポートフォリオ管理、メタデータ管理などの側面を担当することもあります。近年では、デザイン思考やユーザーエクスペリエンスデザインとの重要な関係も強調されています。

米国OMBのFEA実践ガイダンスでは、EAとセグメント（BPR）やソリューションアーキテクチャとの関係が示されています。

公開されたEAの例

民間企業では、市場での競争力を損なう可能性があるため、EA記述の詳細を公開することは一般的ではありません。しかし、多くの政府機関は、開発したアーキテクチャ記述を公開しており、その例として、米国内務省や米国防総省の事業転換エージェンシーなどが挙げられます。

結論

エンタープライズアーキテクチャは、組織の全体像を理解し、最適化するための強力なツールです。組織の構造、機能、情報、技術を包括的に記述することで、効率的な運用、戦略的な意思決定、そして変化への迅速な対応を可能にします。組織の規模や種類に関わらず、EAは持続的な成長と競争力の維持に不可欠な要素です。

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