エンタープライズエンジニアリング

エンタープライズエンジニアリング：企業全体の最適化を目指す学際的分野

エンタープライズエンジニアリングは、システム工学の概念を企業全体の設計・運営に適用する、高度な専門分野です。単なるITシステム開発にとどまらず、事業プロセス、情報フロー、組織構造といった企業活動のあらゆる側面を包括的に分析・設計し、最適化を図ることを目指します。その目的は、企業全体の効率性向上、競争力強化、そして持続可能な成長を実現することにあります。

エンタープライズエンジニアリングの全体像

エンタープライズエンジニアリングは、システム工学と戦略的経営を融合させた学際的な分野と言えるでしょう。製品、プロセス、事業運営といったあらゆる要素を考慮し、企業全体をエンジニアリングするアプローチを取ります。そのため、エンジニアリング管理、運用管理、サービス管理、システム工学といった様々な専門領域の知識とスキルが求められます。

特にソフトウェア開発の文脈では、組織的なシステム分析と設計において重要な役割を果たします。既存の情報モデリングの概念を拡張し、ソフトウェア開発ライフサイクル全体（初期、中間、後期）を網羅する包括的なアプローチを提供します。組織と技術インフラを明確に表現することで、スムーズなシステム導入と運用を支援します。

エンタープライズアーキテクチャ、特にエンタープライズオントロジーと密接に関連しており、企業全体の構造と情報を体系的にモデル化するための基盤となります。

エンタープライズエンジニアリングの手法

エンタープライズエンジニアリングでは、様々な方法論、手法、技法が用いられます。これらは、組織内で再利用可能な事業プロセス・ソリューションを提供するために、設計、テスト、そして標準化されています。代表的な手法としては、以下のものが挙げられます。

コンピュータ統合製造オープン・システム仕組方法論 (CIMOSA): 企業の要求、事業、人材、IT局面を多面的にモデル化します。情報ビュー、機能ビュー、資源ビュー、運用ビューといった異なる視点から企業を捉え、詳細なITシステム設計に役立ちます。それぞれのビューは、企業とソフトウェア技術者にとって分かりやすい参照モデルを提供し、特定の活動に必要なITシステムを容易に特定できます。

統合化定義 (IDEF): 米空軍で開発されたモデリング言語で、機能的、データ、動的、プロセス分析の観点から企業をモデル化します(IDEF0、IDEF1、IDEF2、IDEF3)。これらの表記法を統合するためのツールや技法も開発されており、事業プロセスの流れを明確に示し、UMLダイアグラムへの変換も容易です。

ペトリネット: 製造システムのモデリングに広く用いられるツールです。並行システムのモデリングに優れ、状態と遷移をシンプルに表現できます。事業プロセスのモデル化、ソフトウェアシステム間の移行のモデル化、さらには事業プロセス統合にも貢献します。IBMの中国研究所で開発された「モデル・ブルー」手法は、ペトリネットを用いたモデル駆動型事業統合アプローチの好例です。

統一モデリング言語 (UML): ソフトウェアシステム開発で広く用いられるモデリング言語です。エンタープライズモデリングでは、エンタープライズオブジェクト（事業オブジェクト）間の相互作用をモデル化します。UMLは、複雑な事業システムやプロセスを表現するのに適していますが、事業特有の拡張（拡張エンタープライズモデリング言語など）が必要になる場合もあります。

* エンタープライズファンクションダイアグラム (EFD): 事業機能とその相互作用を表現するためのモデリング技法です。機能モジュールとトリガーを用いて事業プロセスの流れをモデル化し、IDEF0ダイアグラムと多くの類似性があります。UMLへのフロントエンドとしても活用できますが、UMLとのより形式的なマッピングが必要とされています。

まとめ

エンタープライズエンジニアリングは、企業全体の最適化を目指す包括的なアプローチです。様々な手法を適切に組み合わせることで、企業のデジタル変革や競争力強化を強力に支援します。今後の研究開発により、これらの手法のさらなる発展と統合が期待されます。

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