IDEF

IDEF：統合化定義手法ファミリー

IDEF（Integration DEFinition）は、システム工学やソフトウェア工学の分野で用いられる、統合化定義のためのモデリング手法のファミリーです。機能モデリングからデータモデリング、シミュレーション、オブジェクト指向分析／設計、さらには知識獲得まで、幅広い用途をカバーしています。これらの手法は、米国空軍の資金提供によって開発され、その後、他の軍組織や国防省機関でも広く利用されるようになりました。現在も、パブリックドメインの手法として、これらの機関で最も一般的な手法の一つとなっています。

IDEFファミリーの中で、特にIDEF0とIDEF1Xは広く認識され、活用されています。IDEF0は構造化分析設計技法に基づく機能モデリング手法であり、IDEF1Xは情報モデリングとデータベース設計を扱う手法です。

IDEF手法の全体像

IDEFファミリーには、IDEF14まで様々な手法が定義されています。主な手法は以下の通りです。

IDEF0: 機能モデリング手法
IDEF1: 情報モデリング手法
IDEF1X: 情報／データモデリング手法
IDEF2: シミュレーションモデル設計
IDEF3: プロセス記述獲得手法
IDEF4: オブジェクト指向設計手法
IDEF5: オントロジ記述獲得手法
IDEF6: 設計根拠獲得手法
IDEF7: 情報システム監査
IDEF8: ユーザーインターフェースモデリング
IDEF9: 事業制約発見
IDEF10: 実装機構モデリング
IDEF11: 情報生成物モデリング
IDEF12: 組織モデリング
IDEF13: 3層スキーマ・マッピング設計
IDEF14: ネットワーク設計

1995年までに、IDEF0、IDEF1X、IDEF2、IDEF3、IDEF4は完全に開発されました。その他の手法についても概念設計が行われましたが、IDEF7、IDEF10～13は初期定義以上の開発は行われていませんでした。1995年には、IDEF9（事業制約発見）、IDEF6（設計根拠獲得）、IDEF8（人間-システム相互作用設計）、IDEF14（ネットワーク設計）といった、信頼性のある手法開発のための取り組みも行われました。

IDEFの歴史

IDEFの起源は、1970年代に米空軍のマテリアルラボ（オハイオ州ライト・パターソン空軍基地）で開始されたICAM（Integrated Computer-Aided Manufacturing）の定義にあります。開発は1980年代に完了し、アメリカ空軍のICAMイニシアチブの成果物となりました。当初は「ICAM DEFinition」と呼ばれていましたが、後にIEEE標準によって「Integration DEFinition」に改名されました。

IDEFの開発は、ICAMプロジェクト（プライオリティ111、112、後に1102）から始まり、その後、IISS（Integrated Information Support System）プロジェクト（プライオリティ6201、6202、6203）へと繋がります。IISSプロジェクトは、異なる物理コンピュータ環境で動作する情報処理環境の構築を目指したものです。これらのプロジェクトを通じて、IDEFは発展を続けました。IISSプロジェクトの目的は、米国軍需契約や友好国の軍隊など、複数の組織で利用できる汎用的なサブシステムを開発することでした。

ICAM 1102プロジェクトの時代には、コンピュータへのデータ格納方法がさまざまで互換性に乏しい状況でした。関係モデルが台頭し始めていましたが、関係データベース管理システムはまだ一般的ではありませんでした。そこで、ICAMプログラムオフィスは、大規模システムのデータ内容を記述するための「中立的」な方法が必要だと考えました。IDEF1言語は、データの格納方法やファイルアクセス方法に依存せず、データ構造を記述できる中間的な表現方法として開発されました。

IDEF1は、SofTech社との契約の下、ヒューズ・エアクラフトのRobert R. Brownによって開発されました。Brownは、ロックウェル・インターナショナルでのIMS開発経験を活かしました。IDEF1の開発には、様々な情報モデリング技術の知見が取り入れられています。

IDEF1の発展は、新たな情報モデリング方法や製造参照情報モデルの活用をもたらしました。その後、DACOM社がIDEF1モデリングのトレーニングコースや資料を作成しました。IDEF1の経験から、データベース設計への情報要求の変換が予想以上に難しいことが明らかになりました。しかし、IDEF1の最も重要な価値は、データの格納や使用方法に依存せずにデータを表現できる点でした。

IDEFモデリング言語

IDEF0

IDEF0機能モデリングは、組織やシステムの意思決定、行動、活動をモデル化するために設計されました。SADT（Structured Analysis and Design Technique）から派生した図式モデリング手法で、システム分析の組織化と顧客とのコミュニケーションを支援します。

IDEF1X

IISS-6202プロジェクトのデータモデリングの要求に対応するために、DACOM社は論理データベース設計技術（LDDT）と支援ソフトウェア（ADAM）のライセンスを取得しました。LDDTは、関係モデル、E-Rモデル、データ汎化を統合した手法です。IDEF1Xは、IDEF1との互換性を考慮しつつ、LDDTの主要なサブセットを簡潔にまとめたものです。IDEF1Xは、いくつかのCASEツールでも採用されています。

IDEF2とIDEF3

IDEF2は当初、ユーザーインターフェースモデリング手法として計画されましたが、実際には製造システムにおける資源の時系列的挙動を表現するシミュレーションモデリングツールとなりました。IDEF3は、システムが何をするべきかを記述することに焦点を当てています。

IDEF4

IDEF4は、オブジェクト指向プログラミングパラダイムに基づいて開発されました。オブジェクト指向設計の意思決定過程を支援するためのツールです。

IDEF5

IDEF5は、オントロジ（概念体系）の開発と維持を支援する手法です。ドメイン固有の概念やオブジェクトとその関係を記述し、用語の標準化や情報の再利用を促進します。

IDEF6

IDEF6は、設計根拠の収集、表現、維持を支援する手法です。「なぜこの設計がこのように行われているのか？」という疑問に答えるための情報を体系的に収集し、管理します。

IDEF8

IDEF8は、ユーザーとシステム間の相互作用を設計するための手法です。3レベルの仕様（システム運用の考え方、役割中心的シナリオ、詳細設計）で設計されます。

IDEF9

IDEF9は、事業システムにおける制約の発見と分析を支援する手法です。事業システムを構築する制約を明確化し、分析することで、事業の変更を予測可能な方法で行えるようにします。

IDEF14

IDEF14は、コンピュータや通信ネットワークのモデリングと設計を目的とした手法です。既存または想定されるネットワークをモデル化し、設計根拠を文書化します。

政府資金による開発のため、IDEF手法はパブリックドメインで利用可能です。

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