エンマーコムギ

エンマーコムギ（Emmer Wheat）

エンマーコムギ（フタツブコムギとも呼ばれる）は、コムギ属の4倍体の植物であり、古代から栽培されてきた重要な穀物です。その学名は Triticum turgidum subsp. dicoccum であり、野生種は Triticum turgidum subsp. dicoccoides として知られています。エンマーコムギは、中近東において人類によって初めて家畜化された穀物のうちの一つで、長い歴史を有しています。

特徴と栽培

エンマーコムギは、栽培される際の特性としては、熟した穂が砕ける野生種と違い、穂がそのまま残るため、収穫の手間が少なく済むという点があります。栽培されているエンマーコムギは、主に山岳地帯のレリクトクロップとして見られ、現在ではヨーロッパやアジアの一部で伝統的な農作物として育てられています。また、この作物はMinimum Nutrient Requirements（最低栄養要求）が少なくても育つため、栄養に乏しい土地でも十分な収量を得ることができます。

湿度に強く、病気にも耐性があるため、特にアルメニア、モロッコ、スペイン、チェコ、スロバキア、トルコ、イタリアなどの地域で栽培されています。特に、イタリアのトスカーナ州ではファッロと称され、IGP認証を受けた製品として希少価値の高い食材となっています。

果実と用途

エンマーコムギの穀粒は強い殻に覆われており、脱穀時には精米や搗精が必要です。このように、エンマーコムギはパンやビールなど、様々な食品に利用されてきました。古代エジプトでも広く消費されており、パンの主要材料として使われたと言われています。現代でも、スイスやオランダではエンマーコムギを使用した高級パンが販売されており、自生地の文化が色濃く残る食材です。

中近東からはじめ、エンマーコムギはインドなどでも栽培されています。特にインドでは、糖尿病に有用であると考えられ、注目を集めている作物です。さらにアルメニア料理では、エンマーコムギを使ったピラフや羊肉を使ったお粥の kashovi など、地域特有の料理が存在します。

歴史的背景

エンマーコムギの原産地は中東の肥沃な三日月地帯とされ、考古学的にはOhalo IIやNetiv Hagdud遺跡からもその存在が確認されています。特に、最初の人類による栽培化の証拠は先土器新石器時代B期にさかのぼることができ、様々な遺跡から出土したエンマーコムギの種子は、その長い歴史を物語っています。

エンマーコムギは古代エジプトの社会でも重要な位置を占めていました。特にファラオ時代には、エンマーコムギとオオムギが主な穀物として扱われ、古代エジプトのパンやビールの材料として多く使用されました。

現代の課題と展望

現在、世界的にエンマーコムギはレリクトクロップとしての位置づけが強く、栄養と持続可能性の観点から注目されています。特にエチオピアにおいては、伝統的な食用植物として重要視され、農村開発や食の安全保障に貢献することが期待されています。しかし、グルテンが含まれているため、セリアック病や小麦アレルギーのある人々には不適切です。

このように、エンマーコムギには古代からの歴史と豊かな文化が存在し、その重要性は今でも地域の伝統や現代の食生活において息づいています。

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