エンリコ・フェリ

エンリコ・フェリ — 犯罪学と社会改革の先駆者

エンリコ・フェリ（1856年 - 1929年）は、イタリアの著名な刑法学者、犯罪学者、そして社会学者です。彼はイタリア実証学派の一員として精力的に活動し、ボローニャ大学で刑法の教授を務めました。フェリは、犯罪を社会の一部として捉え、その背後にある要因を科学的に分析することに力を注ぎました。

犯罪の原因を探る

フェリの思想の中で特に注目すべきは、犯罪の原因を三つの要素に分類した「犯罪原因の三元説」です。この理論では、犯罪は人類学的要因（年齢や性別など）、物理的・風土的要因（人種、気候、地形、季節、気温など）、社会的要因（人口密度、慣習、宗教、政治など）によって生じるとされています。彼は、これらの要素が相互に作用し合い、複雑な犯罪パターンを生むことを示しました。

犯罪の飽和

さらに、フェリは「犯罪飽和の法則」を提唱しました。この法則によれば、特定の個人的および社会的条件が整った社会においては、発生する犯罪の量が一定であるとされます。具体的には、社会が持つ特性が犯罪の起こりやすさに影響を与えるとの立場を取ったのです。この見解は、犯罪対策におけるアプローチにも影響を与えており、社会環境を整えることが犯罪抑制に寄与すると考えられています。

犯罪対策論

また、フェリは犯罪者の分類に基づく犯罪対策を提唱しました。犯罪者それぞれの背景や性質に応じて適切な対策を講じることが、効果的な犯罪防止につながると考えました。彼のアプローチは、犯罪学における個々のケーススタディの重要性を強調するものであり、これにより社会における犯罪問題への理解を深めようとしました。

社会改革の提唱

エンリコ・フェリは、犯罪学以外にも広範な社会改革理念を提唱しました。彼は、貿易の自由化や市場の独占禁止、労働者の住居提供、銀行設立、街灯の改良、さらには出産制限といった政策を支持しました。これらはすべて、社会の不平等を是正し、犯罪の根本的な原因を解消することを目指すものでした。

フェリ草案の起草

1921年、フェリは「イタリア刑法草案」を起草しました。この草案では、刑罰と保安処分を同じ「制裁」と見なす一元化が試みられ、応報刑論は抹消されました。そのため、この草案は「責任と刑罰のない刑法典」と称されることになります。彼は、犯罪の人類学的要因に拘泥することはなかったものの、それが犯罪の中核にあるという信念を持ち続けていました。

彼の有名な言葉「社会環境は犯罪に対して形式を与えるが、犯罪の要因は反社会的な生物学的構造の中にある」は、彼の思考の一端を示しています。フェリは社会的要因の重要性を強調しましたが、これは彼自身がマルクス主義者であり、社会変革によって社会悪を解消することが犯罪の減少につながると信じていたためでもあります。

主な著書

彼の代表的な著書としては、1884年に発表された『犯罪社会学』 (La Sociologia Criminale) があり、この作品は犯罪学の発展に大きく寄与しました。フェリの業績は、今なお多くの学者や実務家に影響を与え続けています。

もう一度検索