エヴァグレイズを渡る風

『エヴァグレイズを渡る風』は、1958年にニコラス・レイが監督したアメリカ映画です。この作品は、20世紀初頭のフロリダ州エバーグレーズ国立公園を舞台に、自然保護を訴える監視官と、羽飾りを求めて野生動物を密猟する集団との激しい戦いを描いています。クリストファー・プラマーが主演を務め、ピーター・フォークが映画デビューを果たした作品としても知られています。

映画の背景

ニコラス・レイは、前作『にがい勝利』の撮影後、ヨーロッパに拠点を移そうと計画していましたが、彼の作品は一部の映画評論家から支持されるにとどまり、計画は頓挫。アメリカに帰国し、急遽この作品の監督を務めることになりました。撮影はフロリダ州で行われましたが、準備不足や劣悪な環境、天候不順など、多くの困難に見舞われました。さらに、脚本家のバッド・シュルバーグが撮影現場を支配しようとするなど、トラブルが続発。レイ監督は、これらのストレスからアルコールに依存するようになり、体調不良で倒れるなど、晩年の苦しみを予感させる兆候が見られました。最終的に、レイ監督は撮影終了と同時に編集権を奪われ、解雇されてしまいます。映画はプロデューサーと脚本家によって完成されました。

作品の評価

完成した映画は、当初こそ評価が分かれましたが、後にフランスの映画評論家たちによって「ニコラス・レイの映画」として高く評価されるようになります。ジャン＝リュック・ゴダールの『映画史』などでも引用され、現在ではレイ監督の代表作の一つとみなされています。アメリカの映画評論家ジョナサン・ローゼンバウムは、この作品を『理由なき反抗』、『にがい勝利』と並ぶレイ監督のベスト3に挙げています。また、フランスの映画評論家セルジュ・ダネーは、この作品における監視官と密猟団の頭目の関係の変化を、敵対から友情へと変遷する「同盟関係として生きられる父子の関係」と指摘し、レイ監督の映画の核となるテーマを描いた「見事な映画」と評しました。

ストーリー

物語は、20世紀初頭のアメリカで、女性たちの間で帽子の羽飾りが流行したことに端を発します。フロリダ州エバーグレーズの湿地帯では、羽飾りの原料となるサギやフラミンゴの密猟が横行していました。生物学教師としてマイアミに赴任してきたウォルト・マードックは、駅で密猟されたサギの羽が売買されていることに憤慨し、婦人の羽飾りをむしったことで逮捕されます。しかし、地元の自然保護団体オーデュボン協会に助けられ、その監視官となります。密猟者たちは、カットマウスという荒くれ者を頭目に据え、すでに多くのサギを乱獲しており、エバーグレーズの生態系は危機に瀕していました。マードックは、カットマウスによって湿地帯の奥地に置き去りにされ、命の危険にさらされます。しかし、密猟を背後で操る実業家リゲットと結託しているハリス判事は、マードックに逮捕権を与えません。その代わりに、カットマウスをマイアミまで連行すれば、密猟団とリゲットを逮捕する権限を与えるという無理難題を突きつけます。マードックは、カットマウスと対決するため、湿地帯の奥へと向かいます。

主要登場人物

カットマウス：密猟団の首領。自然の中で生きることを誇りとしており、文明を拒否しています。（演：バール・アイヴス）
ウォルト・マードック：オーデュボン協会の監視官。強い正義感を持っており、密猟が生態系に与える影響を危惧しています。（演：クリストファー・プラマー）
ミセス・ブラッドフォード：酒場の女主人。マードックの正義感を評価する一方で、自身も羽飾りの帽子を愛用しています。（演：ジプシー・ローズ・リー）
ナオミ：マードックが下宿する雑貨屋の娘。マードックと恋に落ちます。(演:チャーナー・エデン)
ジョージ・ボスコヴェック：オーデュボン協会の代表。過去にカットマウスのヘビに噛まれ、片足が不自由になっています。(演:アーロン・ネイサンスン)
ジョージ・リゲット：密猟を背後で操るマイアミの実業家。(演:ハワード・I・スミス)
ミセス・リゲット：リゲットの妻。駅で羽飾りをマードックにむしり取られます。(演:メアリー・ペニントン)
ハリス判事：リゲットと結託しているマイアミの判事。(演:マッキンレー・カンター)
教授：カットマウスの子分。知識人であり、詩を愛する一面も持ち合わせています。(演:カート・コンウェイ)
ライター：カットマウスの子分。ピーター・フォークが演じています。



『エヴァグレイズを渡る風』は、自然保護の重要性や人間と自然との関係性など、現代にも通じるテーマを描いた作品です。また、ニコラス・レイ監督の独特な演出や、俳優たちの熱演も見どころとなっています。

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