ニコラス・レイ

ニコラス・レイ(1911-1979)は、アメリカ合衆国の映画監督、脚本家、俳優として知られる、20世紀を代表する映画監督の一人です。ウィスコンシン州生まれ。若き日に建築家フランク・ロイド・ライトのもとで修業しますが、すぐに離れ、ニューヨークで左翼演劇運動に参加。太平洋戦争中は、戦争情報局に勤務し、ラジオ番組や宣伝映画の制作に携わります。そこでエリア・カザンやジョン・ハウスマンといった著名な映画人たちと出会い、ハウスマンの推薦でRKOへと入社しました。

1947年、監督デビュー作『夜の人々』を完成させますが、RKOを買収したハワード・ヒューズの意向により、公開は1949年まで延期されます。ヒューズの支配下にあったRKOに留まりながらも、未完成映画の追加撮影や共同監督などを経験。1940年代末にハリウッドを襲った赤狩り（マッカーシズム）では、ヒューズの政治力によってブラックリストを免れる幸運にも恵まれました。

1950年代に入るとフリーランスの監督となり、数々の名作を世に送り出します。代表作の一つである西部劇『大砂塵』(1954)は主題歌が世界的なヒットを記録。そして、ジェームズ・ディーン主演の青春映画『理由なき反抗』(1955)は、アカデミー原案賞にノミネートされ、レイの名声を不動のものとしました。しかし、この頃からアルコール依存症に苦しみ、奇行や体調不良に悩まされるようになります。

環境問題をテーマにした異色西部劇『エヴァグレイズを渡る風』(1958)では、完成前に制作から外されるなど、苦境に立たされます。『暗黒街の女』(1958)を最後にハリウッドを離れ、ヨーロッパで活動の場を移します。1960年代にはヨーロッパ資本の作品を監督しますが、『北京の55日』(1963)の撮影中に心臓発作を起こし、商業映画監督としては事実上引退を余儀なくされました。

1972年にはニューヨーク大学の講師となり、学生たちとビデオや16ミリフィルムを使った映画制作を始めます。レイを敬愛するヴィム・ヴェンダース監督と共同で制作した『ニックス・ムービー 水上の稲妻』(1980)は、レイの晩年と闘病生活を克明に記録したドキュメンタリー映画として公開され、大きな話題を呼びました。しかし、完成を目前にレイは肺癌で亡くなります。この作品は、レイの死後、彼の業績と人生を象徴する作品として高い評価を受けています。

レイは私生活においても波乱万丈な人生を送りました。4度の結婚と離婚を経験し、最初の妻との間に生まれた息子は、後に女優グロリア・グレアムと結婚しています。『エデンの東』の撮影時、レイの事務所の隣にエリア・カザンの事務所があり、カザンがジェームズ・ディーンにレイを紹介したことが、『理由なき反抗』の主演決定に繋がったという逸話も残っています。『大砂塵』の撮影では、大女優ジョーン・クロフォードと衝突し、映画のラストシーンに、当時としては珍しい女同士の決闘シーンが追加されることになりました。

レイは、ジョン・ウェイン、ハンフリー・ボガート、ジェームズ・ディーン、エリア・カザンなど、数多くの映画界の巨匠たちと交流し、強い影響を与えました。また、ジャン＝リュック・ゴダールなどのヌーヴェルヴァーグの監督たちからも敬愛され、その作品は現代においても高い評価を受けています。監督作品以外にも、俳優としていくつかの映画に出演した他、数多くの脚本家、プロデューサー、そして学生たちとの共同作業も多数残しています。レイの作品は、フィルム・ノワール、西部劇、青春映画など多岐に渡り、彼の独特な映像表現とテーマは、後の映画監督たちに大きな影響を与え続けています。彼の功績は、多くの書籍やDVD化された作品を通じて、今もなお語り継がれています。

もう一度検索