エース・ブックス

エース・ブックス：SF出版の先駆者

エース・ブックス（Ace Books）は、1952年にアーロン・A・ウィンによってニューヨークで設立された出版社です。当初はミステリーや西部劇を中心に扱っていましたが、すぐにSF分野に進出し、その分野で大きな成功を収めました。現在も出版を続けている出版社の中では最古参の一つであり、SFとファンタジーのジャンルにおいて重要な役割を果たしてきました。

設立と「エースダブル」

エース・ブックスの設立には、編集者ドナルド・A・ウォルハイムが深く関わっています。ウォルハイムは、自身の仕事に不満を感じていた頃、アーロン・A・ウィンに新たなペーパーバック出版社を始めることを提案しました。ウィンの出版していたパルプ・マガジンにちなんで「エース・ブックス」と名付けられたこの出版社は、当初こそミステリーや西部劇を出版していましたが、1953年にはA・E・ヴァン・ヴォークトの作品を出版し、SF分野への進出を果たします。

エース・ブックスの代名詞とも言えるのが、2つの作品を背中合わせで1冊にした「エースダブル (Ace Double)」という形式です。この形式はエース・ブックスが考案したものではありませんが、同社が長年にわたって採用し続けたことで、広く知られるようになりました。エースダブルは、2つの小説を1冊で楽しめるという魅力がありましたが、ページ数の制約から、作品が短縮される場合もありました。

SF界のリーダーとして

1950年代から1960年代にかけて、エース・ブックスはバランタイン・ブックスと共にSFペーパーバック市場をリードしました。フィリップ・K・ディック、アーシュラ・K・ル＝グウィン、ロジャー・ゼラズニイなど、後にSF界を代表する作家たちの初期作品を数多く出版し、彼らの才能を開花させる土壌となりました。また、フランク・ハーバートの『デューン』のような大作も手掛け、SFファンからの支持を集めました。

1960年代には、テリー・カーが編集者として入社し、新たな才能の発掘に尽力しました。カーは「Ace Science Fiction Specials」というシリーズを立ち上げ、アレクセイ・パンシン、R・A・ラファティ、ジョアナ・ラスといった作家の作品を世に送り出しました。また、J・R・R・トールキンの『指輪物語』のアメリカでのペーパーバック版を出版し、大きな話題を呼びました。

買収と現在

1967年に創業者であるウィンが亡くなると、エース・ブックスの経営は徐々に悪化し、1972年にはGrosset & Dunlapに買収されました。その後、親会社が何度か変わり、現在はペンギン・グループのインプリントとなっています。しかし、エース・ブックスはSF専門の出版社としての伝統を守り続け、現在も新しい才能の発掘に力を注いでいます。エース・ブックスは、その長い歴史の中で、SFというジャンルの発展に大きく貢献してきました。数々の名作を世に送り出し、多くの作家を育てたエース・ブックスの功績は、SF史に永遠に刻まれることでしょう。

もう一度検索