エーディト・シュタイン

聖エーディト・シュタイン：哲学者、修道女、そして聖人

エーディト・シュタイン(1891-1942)は、20世紀を代表する哲学者の一人であり、カトリック教会の聖人として崇められています。ドイツのヴロツワフでユダヤ人商人の家庭に生まれ、11人兄弟の末っ子として幼少期を過ごしました。しかし、2歳の時に父親を亡くし、母のもとで育ちました。

思春期、彼女は自立した人間になることを目指し、一時的に学校を離れる経験をします。その中でユダヤ教を離れ、無神論者となりますが、後に哲学への探究を通して、カトリック信仰に深く惹かれていきます。

1913年、ゲッティンゲン大学で著名な現象学者エドムント・フッサールに師事し、その影響を大きく受けました。1916年にはフッサール指導の下で博士号を取得し、フライブルク大学で教鞭をとるなど、学問の世界で成功を収めました。

この頃、彼女はカトリック教会に改宗し、洗礼を受けました。現象学者の同僚や、アビラのテレサの自伝との出会いが、その信仰への転向に大きな影響を与えたと言われています。改宗後も、トマス・アクィナスの著作の翻訳など、精力的に活動しました。

しかし、1933年にナチス政権が成立すると、ユダヤ人である彼女は教職を追われ、迫害を受けることになります。1934年、彼女はケルンにあるカルメル会に入会し、「十字架の聖テレサ・ベネディクタ」という修道名を授かります。修道女として、彼女は哲学研究を続け、『有限存在と永遠存在』などの著作を発表しました。

ナチスの迫害を逃れるため、彼女はオランダへ亡命しますが、1942年、アウシュヴィッツ＝ビルケナウ強制収容所に送られ、実姉のローサと共にガス室で殺害されました。彼女の死は、ホロコーストの悲劇を象徴する出来事の一つとなりました。

エーディト・シュタインの死後、彼女の生涯と哲学は再評価され、1987年には列福、1998年には列聖されました。彼女の列聖は、カトリック教会において、ホロコースト犠牲者としての彼女の殉教と、哲学的業績の両方が認められたことを意味します。カトリック教会は、彼女をユダヤ人としてのアイデンティティと、カトリック信仰を両立させた聖人として称えています。

彼女は、現象学とスコラ哲学を融合させようとした独自の哲学体系を構築しました。彼女の著作は、人間の存在の意味、神との関係、そして人間の苦しみと愛といったテーマを探求しています。彼女の哲学は、現代においても、多くの研究者や信者たちに影響を与え続けています。

主要な著作（日本語訳）

『現象学からスコラ学へ』
『国家研究』
『エディット・シュタイン 小伝と手記』
『有限存在と永遠存在: 存在の意味への登攀の試み』

参考文献

鈴木宣明著『エディト・シュタイン 愛のために』
ジョン・サリバン編、木鎌耕一郎訳『聖なる住まいにふさわしき人』
エディット・シュタインの道程　真理への献身　須沢かおり　著
聖エーディト・シュタインの永遠哲学　存在の意味を求めて　導躰章弘　著

エーディト・シュタインの生涯は、宗教、哲学、歴史、そして人間の尊厳といった様々なテーマを深く考えさせるものです。彼女の哲学と人生は、現代社会においても、私たちに多くの示唆を与えてくれるでしょう。

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