エーリヒ・フォン・チェルマク

エーリヒ・フォン・チェルマク

人物と背景

オーストリアのウィーンに生まれたエーリヒ・フォン・チェルマク＝ザイゼネック（Erich von Tschermak-Seysenegg、1871年11月15日 - 1962年10月11日）は、遺伝学や育種学を専門とした著名な農学者です。日本語においては、エーリッヒやチェルマックといった表記も見られます。彼は科学者一家の出身であり、父は鉱物学者でチェルマク閃石にその名を残すグスタフ・チェルマク＝ザイゼネック、母方の祖父は植物学者で、学生時代のグレゴール・ヨハン・メンデルに植物学を教えたエデュアルト・フェンツルという、学術的に恵まれた環境で育ちました。

研究活動と業績

チェルマクの研究キャリアは、特に園芸植物の品種改良への関心から始まりました。その後、彼はフライブルクの農場での実務経験を通じて、作物の病害抵抗性育種に注力するようになります。この分野での彼の業績には、交雑技術を用いたムギの品種改良などが含まれており、実用的な農学研究者としての一面を持っていました。

彼の研究の中でも特筆すべきは、メンデルの法則の「再発見」に関わる功績です。

メンデルの法則の再発見

1896年に学位を取得した後、チェルマクは活発な研究活動を展開しました。そして1900年、彼はオーストリア国内の国営農場で行ったエンドウを用いた大規模な交配実験の結果を発表します。この実験は、遺伝形質の分離や独立に関する法則を示唆するものであり、その成果は同時期に研究を発表したオランダの植物学者ユーゴー・ド・フリース、ドイツの植物学者カール・エーリヒ・コレンスの発見と極めて類似していました。

彼ら3人の研究は、いずれも1860年代にグレゴール・ヨハン・メンデルが発表していた遺伝法則（現在「メンデルの法則」として知られる）を、メンデルの成果がほとんど注目されていなかった時代を経て、それぞれが独立に追究し、再発見したものであると広く認められることとなりました。この「三重の再発見」によって、メンデルの業績は再び科学界の脚光を浴びることとなり、遺伝学は近代生物学の中心分野へと発展していくことになります。

ただし、チェルマクのこの再発見における具体的な貢献度や、彼がメンデルの論文をどれほど理解していたかについては、後年の歴史研究者（例えば、参考文献に挙げられているMonaghanとCorcosらの研究など）の間で議論も存在しており、ド・フリースやコレンスとは異なる側面があったという見解も提示されています。しかし、1900年の発表がメンデル法則の復権に重要な役割を果たしたこと自体は揺るぎない事実です。

その後のキャリア

メンデルの法則再発見者の一人として名声を高めたチェルマクは、学術界での地位を確立しました。1906年にはウィーン農科大学の教授に就任し、後進の指導にあたるとともに、自身の専門分野である育種学の研究を続けました。また、その研究功績が認められ、1938年にはコテニウス・メダルを受賞しています。

チェルマクは、単なる理論的な研究者にとどまらず、実際に作物の品質向上や病害対策に繋がる実用的な育種技術の開発にも貢献しました。彼の研究と教育活動は、オーストリアおよび国際的な農学の発展に寄与しました。

関連事項

グレゴール・ヨハン・メンデル
メンデルの法則
ユーゴー・ド・フリース
カール・エーリヒ・コレンス
* エンドウ

（注：本記事は一般的な情報に基づいており、再発見の経緯に関する学術的な議論の全てを網羅するものではありません。）

もう一度検索