エンドウ

エンドウ（豌豆）

エンドウ（学名: Pisum sativum）は、マメ科に属する一年草または二年草の植物です。一般的にはエンドウマメとも呼ばれ、食用として世界中で広く栽培されています。古くはノラマメとも呼ばれていました。

エンドウの多様な呼び名

エンドウは、その利用方法や成長段階によって様々な呼び名があります。

実エンドウ、グリーンピース: 未熟な種子を食用とする場合の呼び方です。
サヤエンドウ（莢豌豆、絹莢）: 未熟な莢を食用とする場合の呼び方です。
ヨサクマメ: 北東北の一部地域での呼び名です。

日本で栽培されている主な品種には、ウスイエンドウ、キヌサヤエンドウ、オランダエンドウなどがあります。

歴史

エンドウの原産地はエチオピアや中央アジアなどと考えられており、古代エジプトや古代ギリシアでの記録も残っています。そのため、世界最古の農作物の一つとも言われています。

古代オリエント地方や地中海地方で麦作農耕が始まった頃から栽培化された豆で、原産地であるフェルガナから中国に伝わった際に、フェルガナの中国名「大宛国」にちなんで「豌豆」と名付けられたとされています。

原種は近東地方に自生する P. humile であると考えられています。当初は麦畑の雑草として生えていたものが、食用や土壌の肥沃化に役立つことが発見され、麦類と共に栽培されるようになりました。その後、品種改良が進み、現在のエンドウに至っています。

同じ地域を起源とするマメ科作物としては、ソラマメ、レンズマメ、ヒヨコマメなどが挙げられます。エンドウは麦作農耕とともにユーラシア各地に広まり、中国には5世紀頃、日本には8世紀頃に伝わりました。また、メンデルが遺伝の研究に使用したことでも知られています。

特徴

エンドウは、莢の硬さによって硬莢種と軟莢種に分けられます。

硬莢種: 莢が硬く、主に完熟した乾燥豆を食用とします。花は紅色または白色です。
軟莢種: 莢が柔らかく、未熟な莢をサヤエンドウとして、完熟前の豆をグリーンピースとして利用します。

スナップエンドウは、軟莢種の一種で、豆が大きく成長しても莢が柔らかく、豆と莢の両方を食用にできます。グリーンピースは缶詰や冷凍品として通年流通していますが、生のものは春が旬で、格別の風味があります。

エンドウは、原産地が地中海性気候の地域であるため、夏の高温期は成長に適さず、秋に種を蒔き、翌春に収穫するのが一般的です。ただし、寒冷地では春に種を蒔き、初夏に収穫します。連作には弱く、酸性土壌も苦手です。

発芽の際には、ダイズとは異なり、子葉は地中に残ったまま、上胚軸だけが伸びて本葉を展開します。

食品としてのエンドウ

硬莢種は、古くから乾燥豆として利用されてきました。日本ではアオエンドウを煎り豆や煮豆、餡に、アカエンドウをみつまめやゆで豆などに加工します。ヨーロッパでは、煮込んでスープとして利用されてきました。

現在、最も多く消費されているのは、未熟な莢や種実を野菜として利用する軟莢種です。東アジアではサヤエンドウとして、インドから西ではグリーンピースとして主に消費されています。

スナップエンドウは、両方の性質を兼ね備えており、豆が大きくなるまで育てて収穫しますが、莢も柔らかく、全体を食べることができます。

サヤエンドウは、莢のこすれる音が衣ずれのようだということから、キヌサヤとも呼ばれています。スナップエンドウはアメリカ原産の品種で、莢が肉厚で実が大きく、甘みが強いのが特徴です。サトウサヤは、サヤエンドウから改良された品種で、糖度が高めです。「ツタンカーメン」という濃い紫色の莢を持つ品種は、エジプトのツタンカーメンの墓から出土したという説があり、中の豆を食用とします。ウスイエンドウは、関西でよく食べられている、グリーンピースに似た品種です。

エンドウは、収穫時期や食べる部位によって呼び名が変わります。未熟な莢は「さやえんどう」、大きくなった豆は「グリーンピース」、完熟した豆は「えんどう豆」と呼ばれます。若い苗や茎葉も「豆苗」として食用にされます。

エンドウは緑黄色野菜に分類され、炒め物や和え物、豆ごはんなどに利用されます。β-カロテン、ビタミンC、食物繊維が豊富で、豆の部分にはタンパク質も多く含まれています。

スペインのバスク地方では、早摘みのエンドウ（涙豆）が「畑のキャビア」として珍重されています。

2004年には、サッポロビールがエンドウ豆のタンパク質を利用した第三のビールを開発し、食品素材としての可能性が注目されました。また、キッコーマンは、大豆や小麦アレルギーを持つ人向けに、エンドウ豆で醤油の味を再現した製品を販売しています。

メンデルの実験

メンデルは、エンドウを用いて遺伝の研究を行い、遺伝学の基礎となる法則を発見しました。特に、1遺伝子雑種と2遺伝子雑種の研究が有名です。

1遺伝子雑種の研究

エンドウの種子には、丸型としわ型がある。
純系の丸型としわ型を自家受精させたところ、全て丸型になった。
これは、丸型の形質がしわ型の形質に対して優性であることを示している（優性の法則）。
生まれてきた丸型の種子を自家受精させると、丸型：しわ型＝3：1の比率で種子ができた。
これは、対立遺伝子が減数分裂の際に分離し、別々の配偶子に入ることを示している（分離の法則）。

メンデルがエンドウを実験材料に使ったのは、当時すでに遺伝実験の材料として使用されていたこと、自家受粉が可能で多くの品種が存在することなどが理由として挙げられます。

栽培

エンドウは、冷涼な気候を好み、土壌温度が10℃になった頃に種を蒔き、13〜18℃の温度帯で最もよく成長します。温暖な地域では秋蒔きで春に収穫し、寒冷地では春蒔きで初夏に収穫します。多くの品種は、種蒔きから約60日で収穫期を迎えます。

エンドウには、丈の低い品種とつる性の品種があります。つる性の品種は、巻きひげで支柱に絡みつきながら1〜2メートルまで成長します。支柱には、木から切り取った枝や金属製のフェンス、ひもなどが用いられます。密集して植えた場合は、互いに支え合って成長します。

エンドウは自家受粉で繁殖できます。

栽培法

株間: 矮性種20-30cm、高性種30-40cm
播種: 1株に3-4粒蒔き、後に2本に間引く。

エンドウは、私たちの食生活に欠かせない、栄養豊富で美味しい野菜です。その多様な利用方法と歴史は、私たちの食文化を豊かに彩ってきました。

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