オイアクス

オイアクス（古希: Οἴαξ, Oiax）は、古代ギリシア神話に語られる人物の一人です。ナウプリアの地を治めた王ナウプリオスと、カトレウスの娘であるクリュメネーとの間に生まれた息子であり、高名なパラメーデース、そしてナウシメドーンとは兄弟にあたります。

彼の兄であるパラメーデースは、あの有名なトロイア戦争の最中に、策謀家として知られるオデュッセウスの巧みな策略によって命を落としました。この兄の悲劇を知ったオイアクスは、その出来事の一部始終を船の櫂に刻み込み、それを父ナウプリオスへの手紙として海に流したと伝えられています。これによって、遠く離れた父のもとへ息子の死という衝撃的な報せが届けられました。

我が子の死を知ったナウプリオスは激しく憤慨し、トロイアに陣取るギリシア軍のもとへ赴いて強く抗議しましたが、彼の訴えは聞き入れられることはありませんでした。息子の復讐を果たす決意を固めたナウプリオスは、ギリシア軍への報復を計画します。ある説によれば、ナウプリオスが帰還途上のギリシア艦隊を偽の灯火によって難破させようと企てていた頃、オイアクス自身もまた行動を起こしていました。

オイアクスはアルゴスへと向かい、ギリシア軍の最高指揮官であったアガメムノーンの妻クリュタイムネーストラーと、勇将ディオメーデースの妻アイギアレイアという、有力な英雄たちの妻たちに対して讒言を行ったのです。彼は彼女たちに対し、夫たちがトロイアから新たな女性を連れ帰って正妻とするつもりである、という虚偽の情報を吹き込みました。

オイアクスの撒いた不和の種は、悲劇的な結果をもたらします。クリュタイムネーストラーは、かねてより関係を持っていた愛人のアイギストスと共謀し、トロイアから帰還した夫アガメムノーンを冷酷に殺害しました。一方、アイギアレイアは夫ディオメーデースのアルゴスへの帰国を拒絶し、彼を故郷から締め出しました。これにより、ギリシア軍の勝利に貢献した英雄たちの家庭は崩壊し、その後の血塗られた連鎖へと繋がっていきます。

さらに後の時代、アガメムノーンを殺害したクリュタイムネーストラーとその愛人アイギストスが、息子であるオレステースによって討たれた際にも、オイアクスは再び歴史の表舞台に姿を現します。彼は、親殺しの大罪を犯したオレステースをミュケーナイの地から追放しようと画策したと伝えられており、ここでもまた悲劇に干渉する役割を果たしています。

このように、オイアクスは兄の死を父に伝えたことを発端に、ナウプリオスの復讐計画の一端を担い、特に帰還したギリシア英雄たちの家庭崩壊において決定的な役割を果たした人物として、神話の中で語り継がれています。彼の行動は、トロイア戦争後のギリシア世界に広がる混乱と悲劇の一因となったのです。

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