クリュタイムネーストラー

クリュタイムネーストラー：愛憎と復讐の王妃

クリュタイムネーストラーは、ギリシア神話に登場する悲劇的な女性です。スパルタ王テュンダレオースとレーダーの娘として生まれ、英雄カストール、ポリュデウケース、そして絶世の美女ヘレネーを兄弟に持つ名家の出身でした。

二度の結婚と悲劇の連鎖

彼女は初め、アガメムノーンの従兄弟であるタンタロスと愛し合って結婚しましたが、その美貌に魅入られたアガメムノーンによってタンタロスは謀殺されてしまいます。クリュタイムネーストラーは、アガメムノーンとの再婚を余儀なくされ、この結婚は彼女にとって復讐への第一歩となりました。

アガメムノーンとの間には、イーピゲネイア、エーレクトラー、オレステースという子供たちをもうけます。しかし、トロイア戦争開戦時、アガメムノーンは娘イーピゲネイアを生贄として捧げなければならなくなり、クリュタイムネーストラーは最愛の娘を失った悲しみと、夫への憎しみを募らせます。

夫殺しと復讐

トロイア戦争の間、クリュタイムネーストラーは前夫タンタロスの弟であるアイギストスと不倫関係に陥ります。10年間の戦争を終え、凱旋したアガメムノーンを、彼女はアイギストスと共謀して殺害します。この復讐劇は、愛する娘の死に対する怒り、そしてタンタロスを殺した夫への報復という、複雑な感情が絡み合った結果でした。

殺害方法は、アイスキュロスの悲劇によると、アガメムノーンが浴槽に入っているところを、網で絡めとって刺殺するというものでした。さらに、アガメムノーンと共に連れてきたトロイアの王女カッサンドラーも、予言の力で自身の死を悟りながら、クリュタイムネーストラーによって殺害されました。

復讐の連鎖

クリュタイムネーストラーは娘エーレクトラーを恐れ、農民と結婚させようとしますが、エーレクトラーはそれを拒否します。一方、成長した息子オレステースは、母クリュタイムネーストラーと情夫アイギストスを殺害し、父の仇を討ちます。しかし、この母殺しの罪によって、オレステースは復讐の女神に追われることとなり、悲劇は更なる連鎖へと発展します。

最終的に、オレステースはアポロンによって罪を清められ、クリュタイムネーストラーに養育されたヘルミオネーを奪還し、妻とします。この事件は、ギリシア悲劇の重要なテーマである復讐の連鎖、そして神々の介入によって人間の運命が左右される様子を描いています。

系図

父: スパルタ王テュンダレオース
母: レーダー
兄弟: カストール、ポリュデウケース、ヘレネー
夫: タンタロス（最初の夫、アガメムノーンの従兄弟）、アガメムノーン（二番目の夫）
情夫: アイギストス（アガメムノーンの従兄弟、タンタロスの弟）
子供: イーピゲネイア、エーレクトラー、オレステース
養育: ヘルミオネー(ヘレネーとメネラーオスの娘)

彼女を題材にした作品

舞台:
オレステイア
エレクトラ
三つの悲劇・アルゴス坂の白い家 ～クリュタイムネストラ～
クリュタイムネストラ (1958)：アメリカのモダンダンスの振り付け師、マーサ・グラハム作のダンス
その他:
クリュタイムネストラ：ジョン・コリア画の絵画作品。
イフゲニア：演：イレーネ・パパス、監督：マイケル・カコヤニス、1978年製作の映画作品。
黒のヘレネー：山岸凉子著の漫画作品、1979年。

クリュタイムネーストラーの物語は、ギリシア神話の中でも特に悲劇的で、複雑な人間関係と、復讐の連鎖の恐ろしさを教えてくれます。彼女の生涯は、文学や演劇など、様々な芸術作品の題材となり、今日まで人々に影響を与え続けています。

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