オウギハクジラ属

*オウギハクジラ属（Mesoplodon）

名称の由来
属名「Mesoplodon」は古代ギリシャ語で「中央に歯を備える」を意味し、和名「オウギハクジラ」は、特徴的な歯の形状が扇に似ていることに由来します。

概要と分類
オウギハクジラ属（学名：Mesoplodon）は、クジラ目ハクジラ亜目に含まれるアカボウクジラ科の一群です。現在までに16種が確認されており、クジラ目の中でも種数の多い属の一つです。アカボウクジラ科内では、近縁なタイヘイヨウアカボウモドキ属やトックリクジラ属と共にトックリクジラ亜科に分類されることが多いグループです。分類学的な研究は現在も進行しており、1990年代以降も新たな種が発見されています。例えば、1991年にピグミーオウギハクジラ、2002年にペリンオウギハクジラ、そして比較的最近の2021年にはラマリハクジラが新種として報告されました。海洋生物学者の間では、今後も未発見の種が見つかる可能性があると考えられています。かつてタイヘイヨウアカボウモドキを本属に含める見解もありましたが、現在は独立した属として扱われるのが一般的です。

形態的特徴
オウギハクジラ属のクジラは、体長が約3.5メートルから6メートル程度で、ハクジラ亜目の中では比較的小型から中型です。同じアカボウクジラ科のトックリクジラやツチクジラと比較すると、その体は小さい傾向にあります。雌は雄と同程度の大きさか、若干大きい傾向があります。特に雄は、特徴的な歯の生え方や体色を示すことがあります。多くの種では下顎に2本の歯だけが見られ、牙のように発達する場合もあります。一部の種では、この下顎の歯が非常に大きく発達し、上顎との噛み合わせ部分から外側に張り出すような特異な形態を示す種もいます。ただし、ミナミオウギハクジラ（Mesoplodon grayi*）は例外で、上顎に多数（17〜22対）の非常に小さな歯を持ちます。多くのオウギハクジラ類では、体表に無数の傷跡が見られます。ダルマザメによる噛み傷や、雄同士の争いによる傷が見られます。背びれは比較的小さく、頭部から体長の約2/3から3/4ほど後方に位置しています。寿命、妊娠期間、授乳期間といった繁殖に関する詳細は不明です。

生態と謎
オウギハクジラ属の生態は、観測されることが極めて稀なため、いまだ多くの謎に包まれています。種によっては、生きた個体が確認された例がほとんどなく、漂着した死骸によってのみその存在が知られる種もいます。少ない観測記録から推測される行動としては、群れを形成して行動することが多いようです。群れは雌雄が分かれていると考えられています。海上での泳ぎはゆったりとしており、明確な潮吹きは稀です。尾びれを水面に上げることも稀で、これらの特徴が洋上での発見を難しくしています。胃の内容物の分析などから、食料はほぼイカのみと推測されています。深海に生息しイカを捕食することから、非常に深い潜水能力を持つと考えられています。

生息状況と保護
オウギハクジラ属全体の正確な生息数は不明です。直接的な捕鯨の主要な対象とはされていませんが、調査捕鯨によって偶然捕獲される例が報告されています。また、漁業による刺し網などへの混獲被害も確認されていますが、これが生息数に与える影響は明らかではありません。多くの種が希少で生態が不明なため、保護状況の評価は困難です。今後の研究による情報収集が求められています。

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