オクタカルボニル二コバルト

オクタカルボニル二コバルト：有機金属化学における重要な試薬

オクタカルボニル二コバルト (Co₂(CO)₈) は、コバルトの錯体であり、有機金属化学において重要な試薬として広く用いられています。別名として、コバルトカルボニル、二コバルトオクタカルボニル、オクタカルボニルジコバルト、ジコバルトオクタカルボニルなどとも呼ばれます。

特徴

純粋な結晶は橙色ですが、空気中に放置すると褐色に変色し、場合によっては自然発火する危険性があります。そのため、取り扱いには細心の注意が必要です。一方、水素と一酸化炭素の雰囲気下では安定しており、水には不溶です。

合成

オクタカルボニル二[コバルト]]は、一般的にコバルト]塩を高圧の[一酸化炭素雰囲気下で反応させることで合成されます。この際、シアン化物塩の添加が促進効果を示す場合があります。また、炭酸コバルト]に[[水素と一酸化炭素を加圧する方法も知られています。代表的な合成経路の一例は以下の通りです。


2CoCO₃ + 2H₂ + 8CO → Co₂(CO)₈ + 2H₂O + 2CO₂


分子構造

オクタカルボニル二コバルトは、複数の構造異性体が存在することが知られています。結晶状態では、2つのカルボニル配位子が2つのコバルト原子を架橋したC₂v対称構造((CO)₃Co(μ-CO)₂Co(CO)₃)が主要な構造です。この構造において、Co-Co結合距離は2.522-2.525Å、架橋カルボニルとコバルトの距離は1.883-1.949Å、末端カルボニルとコバルトの距離は1.770-1.818Åと報告されています。Fe₂(CO)₉と類似した構造を持ち、カルボニル架橋の数だけが異なります。液相では、非架橋型((CO)₄Co-Co(CO)₄)との異性化平衡が存在します。

反応

オクタカルボニル二[コバルト]]は、様々な反応性を示します。例えば、水素と反応して単核のヒドリド錯体であるテトラカルボニルヒドリド[[コバルト]₄)に分解します。


Co₂(CO)₈ + H₂ → 2HCo(CO)₄


このヒドリド錯体は、ヒドロホルミル化反応の活性種として重要な役割を果たします。アルケンへの付加、カルボニルの挿入、水素化を経て、アルデヒドが生成します。また、一部のカルボニル配位子を三級ホスフィン(PR₃)で置換した誘導体Co₂(CO)₈₋ₓ(PR₃)ₓは、ヒドロホルミル化反応において高い選択性を示すことが知られています。さらに、アルカリ金属による還元によって、アニオン種であるテトラカルボニルコバルトアニオン(Co(CO)₄⁻)が生成します。


Co₂(CO)₈ + 2Na → 2NaCo(CO)₄


オクタカルボニル二コバルトは、アルキンと強いつきあいをして活性化させ、ポーソン・カンド反応やニコラス反応などの有機合成反応において重要な試薬となります。また、ピリジンなどのルイス塩基の作用によって分解し、様々なコバルト錯体を生成します。加熱すると一酸化炭素を放出し、コバルトカルボニルクラスターであるCo₄(CO)₁₂へと変化します。

安全性

オクタカルボニル二コバルトは揮発性があり、分解すると一酸化炭素を発生します。また、空気中で発火する危険性があるため、取り扱いには十分な注意が必要です。通常は暗所、冷蔵保存が推奨されます。

参考文献

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