オステオパシー

オステオパシーは、19世紀後半にアメリカ人医師アンドリュー・テーラー・スティルによって創始された、独特な哲学と医学体系を持つ代替医療です。その語源はギリシア語の「Osteon（骨）」と「Pathos（病理、治療）」に由来し、日本ではかつて整骨療法とも呼ばれていました。

オステオパシーの概念

オステオパシーは、単に骨や筋肉を調整する手技ではありません。骨格、筋肉などの運動器系、動脈・静脈やリンパなどの循環器系、脳脊髄液の循環を含む脳神経系など、広範囲な医学知識に基づき、手を使って治療を行います。オステオパシーでは、以下の3つの重要な哲学を基盤としています。

1. 身体全体をひとつのユニットとして考える: 身体の各部分は互いに関連し合って機能しており、全体として調和が重要であると考えます。
2. 身体の機能と構造は一体のものであると考える: 身体の構造的な問題は機能的な問題を引き起こし、その逆もまた然りであると考えます。
3. 自然治癒力を鼓舞することを主眼とする: 身体が本来持つ自然治癒力を最大限に引き出すことを目指します。

歴史

スティルは、南北戦争の従軍医師としての経験から、既存の医療に疑問を抱き、人体に関する研究を重ねた結果、1874年にオステオパシーを創始しました。当初は、人体に流れる霊的なエネルギーの概念も取り入れ、解剖学的な障害を取り除くことで、その流れを円滑にすることを目指していました。その後、骨だけでなく、筋肉、リンパ、内臓、神経、血管などの異常を治すことで、自然治癒力が高まると提唱しました。

日本には、1904年にレイチェル・リードによって紹介され、その後、山田信一によって本格的に紹介されました。大正期には、オステオパシーは「整体」という言葉で翻訳され、日本の手技療法に大きな影響を与えました。しかし、「整体」という言葉自体が、オステオパシーやカイロプラクティックの訳語として使われるようになったという説もあり、その起源については議論があります。

戦後、海外からのオステオパシー医の来日により、オステオパシーは独自の手技療法として広まりました。

基礎理論と治療法

オステオパシーでは、身体の機能障害（体性機能障害）を、筋、関節、靭帯、神経、血液、リンパ液、脳脊髄液、内臓などを総合的に観察した上で、矯正することにより、身体が本来持つ自然治癒力を引き出すことを目指します。

治療法は、大きく分けて直接法と間接法の2つがあります。

直接法: 機能障害が起きた部位に対し、制限（バリア）を超えて力学的な動作を加え、生理学的な限界を正常に近づける方法です。
間接法: 機能障害が起きた部位に対し、動きやすい方向に力を加え、その状態を誇張することで、脳に異常な状態を認識させ、自然治癒力を発揮させる方法です。

主要な手技

オステオパシーには、様々な手技があります。

直接法: 制限に対して直接外力を加え、可動性を回復させる方法です。
間接法: 制限のない方向（機能障害の方向）に動かし、脳神経にその状態を把握させ、正常な状態に戻す信号を出させる方法です。
ストレイン&カウンターストレイン: 緊張した筋肉を緩める位置で保持し、筋肉のバランスを整える方法です。
筋・筋膜リリース: 筋膜の緊張に対し、直接的または間接的に働きかけ、バランスを整える方法です。
筋エネルギー法: 患者の力を利用し、筋肉や関節の動きを改善する方法です。
スティルテクニック: 関節の解剖学的構造を考慮し、直接法と間接法の両方の特徴を持つ技法です。
頭蓋オステオパシー: 頭蓋骨の動きや硬膜の緊張を調整し、全身の神経機能の改善を目指す方法です。
靱帯性関節ストレイン法: 呼吸や間接法を応用した手技です。
内臓マニピュレーション: 内臓の動きを調整し、機能を円滑にする方法です。
誇張法: 非常に弱い力で機能障害を誇張し、改善を目指す方法です。
クラシカルオステオパシー: スティルの提唱した原則を忠実に守り、オステオパシー本来の源流を汲む手技です。
FDM(Fascial Distortion Model): 筋膜の歪みを矯正し、元の状態に戻す手技です。

医療・医業等との関連

アメリカでは、オステオパシー医（D.O.)は正規の医師として認められており、診断、外科手術、処方、投薬などの診療を行うことができます。一方、日本では、オステオパシーは法制化されておらず、医業類似行為として扱われます。

法律上の問題

日本では、オステオパシーは法制化されていないため、国家資格はありません。そのため、施術者は、あん摩マッサージ指圧師などの国家資格を持つ者とは異なり、医学知識が十分に担保されていない場合があります。施術を行う際には、施術者の資格や経験を十分に確認することが重要です。

参考文献

Robert C. Fuller. “5 Sexuality and Religious Passion: The Somatics of Spiritual Transformation（セクシュアリティと宗教的熱情：霊的変容の身体性）”. Spirituality in the Flesh: Bodily Sources of Religious Experiences（肉体における霊性：宗教的体験の肉体的源泉）. Oxford University Press.

外部リンク

日本オステオパシー連合
* 日本オステオパシー学会

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