オスマン・ガーズィー橋

オスマン・ガーズィー橋は、トルコのイズミット湾を横断し、マルマラ海の東端部に位置する壮大な吊橋です。別名「イズミット湾横断橋」とも呼ばれ、古都イズミットの近郊、大都市イスタンブールからは南東におよそ50キロメートルの場所に架かっています。

この橋は、その主塔間の長さにおいて、世界の吊橋の中でも4番目の規模を誇ります。名称は、オスマン帝国の建国者であるオスマン1世（オスマン・ガーズィー）に敬意を表して名付けられました。

プロジェクトの背景と建設

オスマン・ガーズィー橋は、トルコ国内の主要都市であるイスタンブールとイズミルを結ぶ高速道路計画の中核を成すプロジェクトとして進められました。この長大なイズミット湾を橋で直接渡ることで、両都市間の移動距離を約140キロメートル短縮し、従来の6時間半を要していた所要時間を大幅に短縮して3時間半程度にまで短縮することを目指しました。

プロジェクト全体は、橋の建設と運営を含む形で、BOT（Build-Operate-Transfer：建設・運営・移管）方式による国際入札が2009年4月に実施されました。その結果、トルコの主要建設会社5社とイタリアの建設会社1社で構成される共同企業体「Nomayg」が事業主体として選定され、2010年にはゲブゼからブルサに至る高速道路全体を含む、推定工費110億トルコリラ規模の契約が締結されました。

橋自体の建設工事は、民間の資金調達による10億USドルを費やし、EPC（Engineering, Procurement and Construction：設計・調達・建設を一括請負）方式で日本のIHIインフラシステムに発注されました。IHIは、かつてイスタンブールに架かるファーティフ・スルタン・メフメト橋の建設にも携わった経験を持つ企業です。設計業務はデンマークの技術設計会社COWIが担当しました。Nomayg共同企業体は2013年1月1日にIHIに対して建設開始を許可し、プロジェクトの総工期は37ヶ月と設定されました。2013年3月30日には、当時のトルコ首相レジェップ・タイイップ・エルドアンによって橋の礎石が設置され、建設が本格的に開始されました。

完成した橋は、イズミット湾の北東岸と南東岸を結び、接続する高速道路と共に片側3車線の広大な道路網を構成しています。

橋の構造諸元

オスマン・ガーズィー橋の主要な構造諸元は以下の通りです。

主径間: 1,550メートル
側径間: 566メートル
水面上高さ: 64メートル
主塔高さ: 252.0メートル
主塔大きさ（基部）: 8メートル × 7メートル
桁の規模: 35.93メートル × 4.75メートル

特に主径間の長さ1,550メートルは、世界でも有数の規模であり、吊橋としての技術的な偉大さを示しています。

建設中の事故と開通

建設工事期間中には、予期せぬ事故も発生しました。2015年3月21日、東側ケーブルで吊り下げられていた空中足場が、南側主塔上部の接合部破断により水中に落下する事故が起きました。この足場は建設作業員が湾の反対側へ移動するために設置されていたもので、事故発生時は強風のため作業員はいなかったため、幸いにも負傷者は出ませんでした。しかし、この事故によりイズミット湾の海上交通は一時的に通行禁止となり、ケーブルの回収作業を経て3月23日に再開されました。

この事故に関連して、現場責任者であったIHIインフラシステム所属の日本人技術者が、事故の責任を感じて自らの命を絶つという悲劇も起こりました。彼は遺書に、この事故が自身の職業人生の終わりであり、プロジェクトへの誇りを記し、他の関係者に責任はないとする内容を残していました。

足場の落下事故の原因は部品の材料欠陥と推定され、失われた足場の撤去と新しい足場の架設にはおよそ3ヶ月と約21億円の復旧費用を要しました。

こうした困難を経て、オスマン・ガーズィー橋は当初計画より半年ほど遅れた2016年6月30日に待望の開通を迎えました。開通時には、4度のスーパースポーツ世界選手権王者であるトルコのオートバイレーサー、ケナン・ソフォーグルが橋の上でバイク速度記録挑戦を行い、時速400キロメートルを達成するデモンストレーションが実施され、大きな注目を集めました。開通後の通行量は普通車換算で1日あたり40,000台とされています。

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