オットー・エーリヒ・ドイチュ

オットー・エーリヒ・ドイチュ

オットー・エーリヒ・ドイチュ（Otto Erich Deutsch, 1883年9月5日 - 1967年11月23日）は、オーストリアの傑出した音楽学者です。彼は特に、作曲家フランツ・シューベルトの作品を網羅的に整理し、今日世界共通の作品番号として用いられている「ドイチュ番号」、通称「D番号」を確立したことで最もよく知られています。その精密な文献学的手法は、後世の音楽研究に多大な影響を与えました。

ドイチュは1883年にウィーンでユダヤ系の家庭に生まれました。ウィーンおよびグラーツ大学で芸術史と文学史を学び、ウィーン大学芸術史研究所の助手も務めました。彼のキャリアは、第一次世界大戦で3年間従軍した後に転機を迎え、音楽史研究に専念する道を選びます。この分野での功績が認められ、1928年には教授の称号を授与されました。

1930年代後半の政情不安の中、ユダヤ系であったドイチュはナチス・ドイツの迫害を避けるため、1939年に故郷オーストリアを離れ、イギリスへと亡命しました。彼は戦時中をケンブリッジで過ごしましたが、この間に音楽学上の重要な業績を成し遂げます。

1951年、ドイチュはフランツ・シューベルトの全作品を、年代順に体系的に分類した包括的な作品目録を完成させました。それまで、シューベルトの作品は統一された番号がなく、研究や演奏に混乱をもたらしていましたが、ドイチュはこの目録に独自の番号を付与しました。これが彼の名を冠した「ドイチュ番号」（D番号）です。交響曲第7番「未完成」（D759）、歌曲「鱒」（D550）など、今日私たちがこれらの番号で作品を特定できるのは、ドイチュの功績によるものです。D番号は、シューベルト作品研究および演奏活動における不可欠な標準となりました。

戦後の1952年、ドイチュはオーストリアへ帰国しました。帰国後も精力的に活動し、1955年にはゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル、1961年にはヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトに関する浩瀚な伝記を刊行しました。これらの伝記も、綿密な文献調査に基づいた学術的に価値の高い著作です。

ドイチュは晩年をウィーンで過ごし、音楽学の研究に貢献し続け、1967年11月23日に84歳で死去しました。

オットー・エーリヒ・ドイチュの最大の遺産は、疑いなくシューベルトのD番号です。彼の厳密な文献学的手法と資料整理の能力は、後世の音楽学者にとって大きな模範となりました。彼は単なる目録作成者ではなく、音楽史の深い理解に基づき、偉大な作曲家の生涯と作品に新たな光を当てた、真の意味での音楽学者でした。

彼の主要な著作の一部は日本語にも翻訳されています。

石井不二雄訳『シューベルト 友人たちの回想』（白水社）1978年
井本晌二訳『ドキュメンタリー モーツァルトの生涯』（シンフォニア）1989年
實吉晴夫訳『シューベルトの手紙』（メタモル出版）1997年

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