オットー・ゴルトシュミット

オットー・モーリッツ・ダフィット・ゴルトシュミット（1829年8月21日 - 1907年2月24日）は、ドイツに生まれ、主にイギリスで活躍した作曲家、指揮者、そしてピアニストです。ハンブルクの裕福で教養深いユダヤ人家庭に育ちました。父親は商人モーリッツ・ダフィット・ゴルトシュミット、母親は女性の権利運動にも関与したヨハンナ・ゴルトシュミットです。母ヨハンナは優れた音楽的才能を持ち、八人の子供たちに熱心な音楽教育を施しました。ゴルトシュミットもその影響を受け、音楽の道に進みました。

1843年から1846年にかけて、ゴルトシュミットはライプツィヒ音楽院で学びました。ここでは、ハンス・フォン・ビューロー、フェリックス・メンデルスゾーン、モーリッツ・ハウプトマンといった著名な音楽家から指導を受け、特にメンデルスゾーンからはその才能を高く評価されました。また、当時最も尊敬されていたピアニストの一人であるクララ・シューマンからも個人的なピアノのレッスンを受け、演奏家としての技量を磨きました。

ゴルトシュミットの人生における大きな転機は、1852年2月5日にアメリカのボストンで、世界的な名声を得ていたソプラノ歌手、ジェニー・リンドと結婚したことです。彼は妻への敬意からプロテスタントに改宗しました。夫妻の間には三人の子供が生まれました。

1858年に家族と共にロンドンへ移住したゴルトシュミットは、以降のキャリアの大半をイギリスで築きました。ロンドンでは、王立音楽アカデミーで重要な役割を担い、1863年には教授に就任、後には声楽科長も務めるなど、音楽教育者としても貢献しました。また、当時のロンドンの知的・芸術的なサークルに加わり、アーサー・サリヴァン、ルドルフ・レーマン、チャールズ・ディケンズら著名人たちと交流を深めました。

指揮者としても活発に活動しました。1876年には、バッハ合唱団を設立し、1886年までの十年間にわたり初代指揮者を務めました。この合唱団はバッハ作品の普及に貢献し、現在も活動しています。また、故郷ドイツの重要な音楽祭であるデュッセルドルフのニーダーライン音楽祭でも指揮台に立っています。

作曲家としては、ピアノ協奏曲、ピアノ独奏曲、歌曲、三重奏曲といった様々なジャンルの作品を遺しています。彼の作品で特筆すべきは、1870年に初演されたオラトリオ『ルース』（Ruth）です。この初演では、妻ジェニー・リンドがソプラノソロを担当し、これが彼女にとって最後の公的な音楽公演となりました。また、1863年にはウィリアム・スタンデール・ベネットと共に『英国の合唱読本』（Chorale Book of England）を共同で編纂しており、音楽研究や教育への関心も示しています。

1887年に妻ジェニー・リンドに先立たれた後、ゴルトシュミットは彼女の芸術的遺産を後世に伝えるため、その生涯を綴った伝記『ジェニー・リンド その芸術家としての道程』（Jenny Lind. Ihre Laufbahn als Künstlerin）を1891年に出版しました。彼はその後もロンドンで暮らし続け、1907年2月24日、77歳で静かに息を引き取りました。

オットー・ゴルトシュミットは、多才な音楽家として、演奏、指揮、作曲、教育の各分野で活躍しました。特にロンドンでは、王立音楽アカデミーでの指導やバッハ合唱団の設立を通じて、イギリス音楽界に確かな足跡を残しました。彼の名は、偉大な歌手の伴侶としてのみならず、19世紀後半のヨーロッパ音楽史において重要な役割を果たした人物として記憶されています。

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