アーサー・サリヴァン

アーサー・サリヴァン：イギリス・オペラの巨匠

アーサー・シーモア・サリヴァン（1842年5月13日-1900年11月22日）は、19世紀イギリスを代表する作曲家の一人です。ウィリアム・S・ギルバートとの共同作業で生まれたオペラは、とりわけ有名で、その軽妙洒脱な作風と魅力的な音楽は、今日でも世界中で愛され続けています。本稿では、サリヴァンの生涯と作品、そして彼が残した遺産について、詳しく見ていきましょう。

音楽への道：幼少期から才能開花

ロンドンのランベスに生まれたサリヴァンは、軍楽隊隊長である父の影響を受け、幼い頃から音楽に親しみました。8歳頃には、父のバンドで使われる楽器を自在に操るほどに腕を磨き、才能の片鱗を見せつけます。その後、ベイズウォーターの私立学校を経て、王室礼拝堂の合唱隊員となり、音楽教育を受けました。この間、既に賛美歌や歌曲を作曲しており、音楽家としての道を着実に歩み始めていました。

1856年には、最初のメンデルスゾーン賞を受賞。王立音楽アカデミーで2年間学んだ後、1858年にはライプツィヒへ留学し、指揮法などを学びます。この留学期間は、サリヴァンの音楽的成長に大きな影響を与えました。1862年に帰国後は、クリスタル・パレスでのシェイクスピア「テンペスト」の付随音楽を手掛け、英国最高の作曲家としての地位を確立していくのです。初期の作品には交響曲やオラトリオ、歌曲などがあり、多様なジャンルで才能を発揮しています。中でも「失われた琴線」は、広く親しまれる名曲となりました。

ギルバートとの黄金時代：サヴォイ・オペラの誕生

20代後半から30代にかけては、オペレッタ作曲家としての活動が本格化します。1871年には、ジョン・ハリングスヘッドの委嘱により、ギルバートと共同でオペレッタ「テスピス」を作曲。これは必ずしも成功作とは言えませんでしたが、後に「ペンザンスの海賊」の一部として再利用されるなど、後の成功の伏線となりました。同時期には「進め、キリスト者の兵士」も作曲しており、宗教音楽の分野でも才能を発揮しています。

サリヴァンとギルバートの真の協力関係が始まったのは1875年、「陪審裁判」の大成功がきっかけでした。この作品を皮切りに、2人はその後20年以上に渡り、数々の傑作を生み出します。中でも「軍艦ピナフォア」は、アメリカでも大ヒットを記録。著作権を守るため、2人はアメリカへ渡り、「ペンザンスの海賊」をニューヨークで上演するなど、国際的な成功を収めました。

1881年には、サヴォイ劇場のこけら落としとして「ペイシェンス」が上演され、その後「イオランテ」「ミカド」「古城の衛士」など、数々のサヴォイ・オペラが上演されることに。これらの作品は、独特のユーモアと洗練された音楽で、当時の観客を魅了しました。「ミカド」は、19世紀末の異国趣味の風潮を反映した作品であり、今日でもその魅力は色褪せていません。これらの作品群は総称して「サヴォイ・オペラ」と呼ばれ、イギリス演劇史に燦然と輝くものとなっています。

後半生と評価

1883年、サリヴァンはヴィクトリア女王からナイトの称号を授与されます。しかし、批評家の中には、彼のオペレッタ作曲家としてのキャリアに終止符を打つべきだと考える者もいました。騎士称号を得た作曲家が、オペレッタのような「下世話な」作品を続けるのはふさわしくないという考えがあったからです。サリヴァン自身も、ギルバートとの共同作業に限界を感じ始めていました。ギルバートの意見を取り入れることで、自分の音楽性を制限されていると感じていたのです。

彼は「黄金伝説」などのカンタータを発表して、自分の音楽的幅を示そうとしますが、1890年にはギルバートとの共同作業に終止符を打ちます。その後は、ギルバート以外の作詞家と作品を制作し、また、大規模なオペラにも挑戦しました。しかし、ギルバートとのコラボレーションが彼のキャリアにおける最大かつ最も重要な成功であったことは間違いありません。

1900年、サリヴァンは肺炎のため58歳で亡くなりました。彼の死は、イギリス音楽界に大きな損失をもたらしました。ロンドンのヴィクトリア堤防公園には、彼の顕彰碑が建てられています。

サリヴァンの遺産

アーサー・サリヴァンは、イギリス音楽史に大きな足跡を残しました。ギルバートとの共同作業で生まれたサヴォイ・オペラは、その軽妙なユーモアと美しい音楽で、人々を魅了し続け、今日でも世界中で上演されています。彼の作品は、単なるエンターテイメントとしてだけでなく、社会風刺や人間ドラマを描いた作品としても高く評価されています。サリヴァンは、作曲家としてだけでなく、時代の寵児として、そしてエンターテイメントの創造者として、その名を後世に伝えることでしょう。

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