オデッセイ・1985・SEX

遠藤ミチロウの異形アルバム『オデッセイ・1985・SEX』：パンクを超えた音楽的冒険

1985年、日本の音楽シーンに衝撃を与えたアルバムがある。遠藤ミチロウ名義ではなく、Michiro, Get the Help!名義でリリースされた『オデッセイ・1985・SEX』である。これは、単なるアルバムではなく、12インチレコード3枚組という異例の形態で発表された作品であり、後に1枚のCDにまとめられた。

このアルバムは、ザ・スターリン解散後の遠藤ミチロウが、キングレコードとの契約、そして自ら設立した「G.N.P.」レーベルという新たな土壌で制作された。遠藤ミチロウが提唱した「グロテスク・ニュー・ポップ(G.N.P.)」という概念に基づき、従来の枠にとらわれない音楽的冒険が展開されている。

ザ・スターリン解散からG.N.P.レーベル設立まで

1985年1月、ザ・スターリンの解散が発表された。同年2月には解散記念ライブを開催し、その後遠藤ミチロウは徳間ジャパンを離れ、東芝EMIを経て、キングレコードと契約を結ぶ。そして6月、自身のレーベル「G.N.P.」を設立。このレーベルは、遠藤ミチロウの音楽的ビジョンを具現化する拠点として、本作『オデッセイ・1985・SEX』の制作を支えた。

豪華ミュージシャンと多様な音楽性

本作に参加したミュージシャンは、遠藤ミチロウの音楽遍歴を物語る錚々たるメンバーだ。ザ・スターリンの小野昌之、ルースターズの下山淳、高橋ゲタ夫、今井智、元四人囃子の岡井大二といった、当時第一線で活躍していたミュージシャンに加え、様々なセッションで知られるミュージシャンも参加しており、音楽的多様性を生み出している。

楽曲は、ファンク、プログレ、レゲエ、タンゴ、ロックンロール、そして電子音楽と、多様なジャンルが融合している。さらに、ビートルズのカバー曲「HELP!」も収録されており、そのアレンジも独特だ。楽曲制作は主に遠藤ミチロウ自身が行っているが、小野昌之や下山淳も作曲に参加し、加藤正文、木村守と共にプロデュースを担当している。

衝撃的なジャケットと収録曲

アルバムのジャケットは、沢田研二の衣装デザインでも知られる早川タケジがアートディレクション、イラストは丸尾末広が担当。当初のイラストは、日本航空123便墜落事故の影響で修正されることとなった。3枚の12インチレコードそれぞれに異なるタイトルと楽曲が収録されており、『オデッセイ・1985・SEX』、『アメユジュトテチテケンジャ』、『GET THE HELP!』という、独特の世界観を表現している。

例えば「アメユジュトテチテケンジャ (THIS IS LOVE SONG)」は、白紙に戻すかのようなホワイト・ノイズからドラマチックな展開を見せる、タンゴとレゲエが融合した複雑なリズムとメロディーを持つ隠れた名曲と評されている。「オデッセイ・1985・SEX」は、ファンキーなサウンドと挑発的なボーカルが、遠藤ミチロウのダークなイメージを一新したと評価されている。

批評家の評価と商業的成功

『オデッセイ・1985・SEX』は、批評家からも高く評価されている。音楽誌『DOLL MAGAZINE』では「ザ・スターリンなんて知らないよう！とブチ撒けた一大SEX叙事詩」と表現し、その音楽性とコンセプトの斬新さを称賛した。また、音楽誌『レコード・コレクターズ』では、ファンクやタンゴなどダンサブルな楽曲の多さを評価し、遠藤ミチロウの音楽的多様性を高く評価している。

商業的な成功も収めた。12インチレコード3枚組という特殊な形態にも関わらず、オリコンチャートにもランクインしている。その後、CDとカセットテープで再リリースされ、2008年にはSHM-CDとして再発された。再発盤にはボーナストラックとして、シングルバージョンやB面曲などが追加収録されている。

まとめ

『オデッセイ・1985・SEX』は、遠藤ミチロウの音楽家としての幅広さと実験精神を余すことなく示した作品である。ザ・スターリン時代のパンクから脱却し、新たな音楽的可能性を追求したこのアルバムは、日本のロック史において重要な位置を占めている。その大胆な音楽性、異質なビジュアル、そして独特のコンセプトは、今もなおリスナーを魅了し続けている。

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