オトレーイス

オトレーイス（古希: Οθρηις, Othrēis）は、古代ギリシアの神話世界に登場する、森や山と縁の深い精霊であるニュムペーの一柱です。その名はテッサリアー地方南部にそびえるオトリュス山に由来すると考えられており、この山に関連するニュムペーであったと推測されています。名前は長音を省略してオトレイスと表記されることもあります。

彼女は複数の神との間に子をもうけたと伝えられています。まず太陽神アポローンとの間にパグロスという息子を、次に最高神ゼウスとの間にメリテウスを身ごもりました。

特にゼウスとの関係と、それに続く息子メリテウスの物語は、古代の著述家アントーニーヌス・リーベラーリスが、コロポーンのニーカンドロスの作品に基づいて伝えています。この物語によると、オトレーイスは全知全能の神であるゼウスの子を宿したものの、神々の女王でありゼウスの正妻であるヘーラーの激しい怒りを恐れました。ヘーラーが夫の不貞を知った際に示す報復を考え、彼女は生まれたばかりの我が子メリテウスを、森深くに置き去りにするという悲痛な決断を下しました。

しかし、ゼウスは自身の子を見捨てることはありませんでした。神の計らいによって、捨てられた嬰児は不思議な形で救われます。森に集まった蜜蜂たちが、メリテウスに蜜や花粉を与え、まるで母親のように彼を養育したのです。

時が経ち、メリテウスは森の中で逞しく成長しました。ある日、同じオトレーイスの子である異父兄パグロスが森に入り、成長したメリテウスを発見します。しかも、彼が蜜蜂によって育てられているという驚くべき光景を目にし、パグロスは大いに感銘を受けました。パグロスはメリテウスを自身の家に連れ帰り、保護しました。そして、彼が蜜蜂に育てられたことにちなんで、「蜜蜂の男」という意味を持つ「メリテウス」と名付け、自らの子として愛情深く養育したのです。

メリテウスはやがて成人し、卓越した指導者となりました。彼は故郷に近いプティーアー地方、具体的にはオトリュス山の北麓地域に、自身の名を冠した都市メリテーを創建しました。この都市は彼の手によって発展し、その地域の中心地の一つとなったと考えられています。

さらに後代のメリテー市に関する逸話も伝えられています。この都市に、タルタロスというあだ名で呼ばれるほど暴虐な王が現れ、住民を苦しめました。しかし、最終的にはアステュギテースという名の勇敢な少年に退治され、都市に平和が戻ったとされています。これらのエピソードは、メリテウスが創建した都市の歴史の一部として語り継がれました。

オトレーイスは、自身が直接物語の中心で活躍するわけではありませんが、アポローンとゼウスという二柱の重要な神との関係を持ち、特にゼウスの子メリテウスとその都市創建にまつわる物語の発端となった存在として、ギリシア神話の一端を彩るニュムペーと言えるでしょう。彼女の物語は、神々の複雑な関係性や、子を守ろうとする親の葛藤、そして神の恩寵といった様々なテーマを含んでいます。

もう一度検索