オフィオライト

オフィオライト（英: ophiolite）は、地球の表面を覆うプレートの一部である海洋プレート、特にその海洋地殻から、さらにその下にある上部マントルの一部に至るまでの一連の地層が、ほぼ連続した構造を保ったまま地表に露出した岩体を指します。これらの岩石は、本来は数キロメートルから数十キロメートルの深さに存在するものですが、プレート運動によって特殊な環境下で地上に姿を現します。

オフィオライトが地表に現れるのは、主にプレートが互いに衝突する境界域です。具体的には、海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込む沈み込み帯や、大陸プレート同士が衝突する大陸衝突帯などで、プレートにかかる強い圧縮力や剪断力によって、海洋プレートの表層部分（海洋地殻やその直下のマントル）が剥ぎ取られ、大陸プレートの上に乗り上げる現象（衝上、あるいはナップ形成）が生じる際に形成されます。その後の長い年月における浸食作用などにより、衝上した構造の内部が削られて地表に露出することで、オフィオライトとして観察できるようになります。

地球科学において、オフィオライトは極めて重要な研究対象です。その最大の理由は、通常では掘削などによって到達することが困難な、地球内部、特に上部マントルの構成物質を直接観察し、採取できる数少ない機会を提供するからです。これにより、マントルの組成や構造、そしてプレートテクトニクス理論の根幹をなす「海洋底が中央海嶺で生成され、拡大していく」というプロセスで、どのように海洋地殻が形成されるのかといった、地球内部のダイナミクスに関する貴重な情報が得られます。オフィオライトの研究は、プレートテクトニクス理論の確立とその後の発展に大きく貢献してきました。

典型的なオフィオライトの層序構造は、下位から上位に向かって、海洋プレートが形成される際に積み重なった岩石の種類と、その形成環境を反映しています。理想的なオフィオライト断面は、以下のような層が連続して観察されます。

1. 最下部：かんらん岩 (Peridotite)
これは上部マントルを構成する岩石であり、オフィオライトの最下部に位置します。多くは、マントル物質が部分的に溶融して玄武岩質マグマを生成した後に残った残留岩体と考えられています。マントルの変形構造を示すテクトナイト（構造岩）として産することが多いです。

2. かんらん岩の上：超苦鉄質岩（積成岩体） (Cumulate Ultramafic Rocks)
上部マントルの上部に位置するか、あるいはマグマだまりの最下部で、かんらん石などの鉱物が沈殿・固結してできた積成岩体と考えられています。かんらん岩や輝石などからなります。

3. 超苦鉄質岩の上：斑れい岩（積成岩体） (Cumulate Gabbros)
海洋地殻の下部を構成する深成岩です。中央海嶺の地下に存在したマグマだまりの中で、主に斜長石や輝石が沈殿・固結してできた積成岩体と考えられています。

4. 斑れい岩の上：等粒状斑れい岩 (Isotropic Gabbros)
斑れい岩の層の上部に位置し、特定の鉱物配列を持たない等粒状組織を示す斑れい岩です。マグマだまりの上部や、マグマが貫入・固結した場所で形成されたと考えられています。

5. 等粒状斑れい岩の上：シート状岩脈複合体 (Sheeted Dyke Complex)
海洋地殻の中部を構成します。玄武岩質マグマが繰り返し地表に向かって貫入し、互いに平行に並んで固結したダイアベイス（斑れい岩と玄武岩の中間的な組織を持つ岩石）の薄い板状岩体（岩脈）が密集してできた構造です。これは、中央海嶺における海洋底拡大の直接的な証拠と考えられています。

6. シート状岩脈複合体の上：玄武岩 (Basalt)
海洋地殻の上部を構成する火山岩です。海底に噴出した玄武岩質溶岩が急速に冷え固まってできたもので、水中で溶岩が噴出した特徴的な形態である「枕状溶岩」として産することが多いです。

7. 最上部：チャート（遠洋性堆積物） (Pelagic Sediments)
* 海洋地殻の最上部を覆う薄い堆積岩層です。主に放散虫や珪藻といった微小なプランクトンの殻や、遠洋性の粘土などが海底にゆっくりと堆積して形成されます。この層は、形成された海洋プレートが中央海嶺から離れていくにつれて、その上に降り積もった堆積物を示しています。

これらの層が下位から上位にかけて順に積み重なる構造は、海底下のマントルからマグマが上昇し、海洋地殻を形成していく過程を忠実に記録していると考えられています。オフィオライトは、この地球のダイナミックな営みを理解するための、かけがえのない自然の記録媒体と言えるでしょう。

もう一度検索