オヤニラミ

オヤニラミ

オヤニラミ（学名：Coreoperca kawamebari）は、スズキ目に含まれるタカハヤ科オヤニラミ属に属する魚類です。その名前は、繁殖期にオスが卵を熱心に守る様子に由来するといわれています。縄張り意識が非常に強いことでも知られています。

分布

この魚は、日本の本州（桂川・由良川水系より西側）、四国北東部、九州北部、および朝鮮半島南部に自然分布しています。ただし、長崎県での生息については、古い文献での報告のみで確認が難しい状況です。一方で、愛知県、岐阜県、京都府、滋賀県、東京都、奈良県など、本来の生息域ではない場所にも人間の活動によって移入され、定着していることが報告されています。

形態

オヤニラミは、最大で全長15センチメートルほどに成長します。体は左右に平たく、体高が高い独特な体型をしています。鰓孔の後方から尾鰭の付け根までの鱗の数（縦列鱗数）は33から38枚、明瞭な側線上にある有孔鱗の数も同様に33から38枚です。背骨の数は28または29個です。体色は緑がかった黄褐色を基調とし、背中側はやや暗い色合いをしています。目の前には1本、後ろには5本から7本の赤い筋模様が放射状に入ります。また、鰓蓋の後端には、黄色い縁取りのある鮮やかな青い眼状紋が見られます。体側面には6本から7本の黒っぽい横縞模様があります。

虹彩（瞳の周りの部分）は赤く、口は比較的大きく、やや上向きについています。鰓にある櫛状の器官（鰓耙）は、上部に0または1個、下部に6個から8個あり、合計で6個から8個です。鰓蓋の後ろには2本の鋭い棘があります。尾鰭の後端は丸みを帯びています。背鰭や臀鰭などの垂直鰭は暗赤色で、軟条部の外縁には数列の青い斑点が並んでいます。

卵は直径2.2ミリメートルから2.4ミリメートルほどの大きさで透明です。孵化直後の仔魚は全長5.1ミリメートルから5.8ミリメートルです。

生態

オヤニラミは、河川の中流から下流域、あるいはその支流や用水路などに生息します。比較的清涼で流れが緩やかな水質を好み、底質は砂礫や砂泥で水生植物が茂っているような環境を好みます。非常に強い闘争性を持ち、仔魚の時期を除いて単独で生活する性質があります。

主な餌は水生昆虫や甲殻類などです。天敵としては、カムルチーやナマズ、カワセミなどが考えられており、特に稚魚はドンコなどに捕食される可能性も指摘されています。

繁殖期は卵生で、主に春から夏にかけて行われます（4月から9月頃、特に5月から6月が盛期）。オスは産卵場所として選んだ水生植物の茎などを口でつついたり、腹面でこすったりして掃除し、準備を整えます。メスが近づくと、オスは口や鰓、鰭を広げてメスを誘います。メスが産卵場所に沿って泳ぎ始めると、オスはそれに寄り添い、吻端でメスの尾鰭に触れる行動を見せます。メスは尾を振りながら植物の茎に沿って卵を2列に産み付け、オスがその場で放精します。1回の産卵で約80個、1つの巣全体では250個から1,000個もの卵が産み付けられます。オスは卵が孵化するまで、胸鰭を使って卵に新鮮な水を送ったり、近づいてくる他の小動物を攻撃して追い払ったりして、献身的に卵を保護します。このオスによる卵保護の行動が、標準和名「オヤニラミ」の由来になったと考えられています。

飼育下での観察では、生後1年で全長6センチメートルから7センチメートルに達し性成熟する個体が見られます。生後2年で8センチメートルから9センチメートル、生後3年で10センチメートルに成長した例もあります。

人間との関わりと保全

オヤニラミには、各地で様々nな方言名があります。例えば、京都府では「おじにらみ」「みこどん」「もうお」、岡山県では「よつめ」、福岡県では「みずくりせえべえ」「せえべえ」、佐賀県では「よるめひるめ」「よんめひるめ」、長崎県では「かわめばる」、熊本県では「みずくりせんぺい」「せーべえ」などと呼ばれています。

オヤニラミを専門的に狙った漁業は行われておらず、一般的に食用とされることもほとんどありません。しかし、釣りや投げ網、刺し網などによって他の魚と一緒に混獲されることがあります。特に鰭の棘が発達しているため、刺し網にかかりやすい魚です。

過去には、本来の生息域ではない場所へ無計画に放流された結果、各地に移入し定着する問題も起きています。

また、日本国内では、河川の改修やダム・堰の設置、圃場整備による生息地の破壊、都市化に伴う環境変化、生活排水や工事による水質汚濁、そして人為的に持ち込まれたオオクチバスやブルーギルといった外来種による捕食・競合など、様々な要因によって生息数が減少傾向にあります。このため、環境省のレッドリストでは絶滅危惧IB類 (EN) に指定されており、その保全が重要な課題となっています。

ペットとして

オヤニラミは、その独特な姿や行動から、観賞魚としてペットとして飼育されることもあります。古くは1930年代にはすでに愛好家によって飼育下での繁殖が試みられており、本来生息していない地域でも流通するようになりました。非常に闘争性が強いため、基本的に1匹ずつ単独で飼育するのが推奨されますが、もし複数飼育を行う場合は、大型の水槽を用意し、水草をたくさん植えたり隠れ場所を多く設置したりするなど、縄張り争いを避ける工夫が必要です。餌としては、水生昆虫やメダカの稚魚などが適していますが、慣らせば人工飼料も食べるようになります。

名前の由来

標準和名の「オヤニラミ」の由来については諸説あります。最も広く知られているのは、オスが産卵場所で卵を外敵から守る際に威嚇する様子から、「親が子を守るために睨みを利かせている」という説です。また、非常に縄張り意識が強い性質から、「たとえ自分の親であっても縄張りに入れば睨みつける」といった説や、鰓蓋の眼状紋を子、本当の目を親に見立てて「子が親を睨んでいるように見える」といったユニークな説もあります。

他にも、地方によって様々な呼び名があり、兵庫県では「ミコウオ」、中国地方の一部では「ミコノマイ」「ネコノマイ」、広島県や九州北部では「ヨツメ」、山口県では「ネラミ」などと呼ばれます。「ミコウオ」や「ネコノマイ」といった名称は、繁殖期の求愛行動に見られる独特な泳ぎに由来すると考えられています。「ミズクリセイベイ」は、オスが卵に新鮮な水を送る行動にちなんだ名前です。「カワメバル」という名前は、スズキ目の海水魚であるメバル（眼張）に姿が似ていることから付けられました。

属名の Coreoperca は、「朝鮮（Coreo）のパーチ（スズキの仲間を表すPerca）」という意味で、種小名の kawamebari は、長崎県での地方名である「カワメバル」に由来しています。

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