オルグ (社会運動)

「オルグ」という言葉は、英語の「organize（組織する）」の略称に由来します。主に日本の左派系団体や政党が、組織を広げ、新たな構成員を仲間に加えるために行う活動、またはその活動を担う人物を指します。この言葉は、組織内部では肯定的なニュアンスで使われる一方、外部からは批判的な文脈で用いられることが多く、特にカルト的な宗教団体による勧誘活動を指して使われることもあります。本稿では、主に日本の新左翼、既成左翼、労働組合における組織拡大のための勧誘活動とその実行者について詳しく解説します。この活動を専門に行う人物は「オルガナイザー」と呼ばれ、未組織層の動員や組織加入促進、資金調達などを目的に上部機関から派遣されることもあります。

歴史的背景

1960年代から1970年代にかけて、日本の左翼各党派は比較的容易に新たな構成員を獲得することができました。この時代には、時間をかけて個人に働きかけ、組織に引き入れるための様々なノウハウが培われていきました。当時の状況を示す例として、平野悠氏の中央大学での体験が挙げられます。過激な学生運動が活発だった中央大学に入学したばかりの平野氏は、新左翼団体のオルグを受けて組織に加わりました。当初は日本革命的共産主義者同盟革命的マルクス主義派（革マル派）に所属しましたが、組織を離れ、その後、日本革命的共産主義者同盟（第四インターナショナル日本支部）を経て、最終的にブント（共産主義者同盟）に加わりました。しかし、1972年に発生した連合赤軍によるあさま山荘事件とその後に明らかになった山岳ベース事件での凄惨な「総括」（内部粛清）や内ゲバ（組織間の暴力抗争）の実態が広く報道されると、新左翼に対する国民のイメージは劇的に悪化しました。これにより、新たな構成員を獲得するどころか、既存組織を維持することすら極めて困難な状況に陥ります。前述の平野氏も、相次ぐ内ゲバに幻滅し、学生運動そのものから身を引きました。

具体的な活動事例

三里塚闘争（成田空港建設反対運動）においても、新左翼各派、特に中核派などがオルグ活動を行いました。彼らは空港建設に反対する地元農民に対して、無償で奉仕活動を行うなどして接近し、地権者組織の内部に入り込みました。その目的は、農民たちを自らの構成員や活動の賛同者として取り込むことにありました。当初、地権者の多くは補償金を受け入れて立ち退く意向でしたが、反体制活動や闘争そのものを目的とする新左翼の介入により、問題は長期化しました。結果として、主に空港建設関係者の側に複数の死傷者を出すという痛ましい事態につながりました。

勧誘手段の詳細

オルグ活動は、計画的かつ多段階的に進められます。

1. 構成員候補の選定: まず、組織の構成員となるのにふさわしい人物が選ばれます。候補者を見つける場としてよく利用されたのが、大学のクラブ活動です。新左翼党派は、活動拠点とする大学に多数の偽装サークルを設けていました。これらのサークルは「○○問題研究会」といった知的で真面目な雰囲気を装っており、社会的な問題に関心を持つ真面目なタイプの学生を引きつけました。学生はまずこれらの偽装サークルに入会させられます。

2. 秘密裏の調査: 新しく入会した学生に対しては、過去の経歴、性格、家族構成など、様々な個人的情報が秘密裏に調査されます。この調査を通じて、組織が求める条件に合う人物が構成員候補として絞り込まれます。具体的には、
社会体制への反発心を持つ人物
権力機関に関わる親族がいない人物
* 社会問題への関心がありつつ、思想的に未確定な人物
などが候補となりやすいとされています。

3. 候補者への工作（思想誘導）: 構成員候補として選ばれた学生には、通常のサークル活動とは別に、個別の学習会が頻繁に行われます。この勉強会では、党派独自のイデオロギー、例えば「現代社会の抱える矛盾は資本主義体制に根源がある」といった思想が徹底的に教え込まれます。こうした学習を繰り返すことで、学生を次第に「資本主義体制に抵抗し、革命を目指す存在」として自己を認識するよう誘導していきます。

4. 肉体オルグ: 性的関係を利用して対象者を組織に引き込む手法、いわゆる「肉体オルグ」も利用されました。この手法は、特に末端の構成員を組織に結びつけ、活動に駆り立てる上で、一定の効果を上げたと言われています。

5. 構成員獲得: 一連の思想工作や関係構築を経て、対象者が組織の思想や活動への理解を深め、受け入れるに至ったと判断されると、正式に組織の構成員として認められます。このようにして獲得された構成員は、強い信念を持ち、組織に対する忠誠心が高い傾向にあると評価されています。

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