オルタネートルート

オルタネートルートとは

オルタネートルートとは、インターネットのドメイン名システム（DNS）において、公式なルートゾーンとは別に存在する、代替的なルートゾーンのことです。DNSは、人間が理解しやすいドメイン名（例：example.com）を、コンピュータが理解できるIPアドレス（例：192.0.2.1）に変換するシステムです。このDNSの階層構造の頂点に位置するのがルートゾーンであり、すべてのトップレベルドメイン（TLD）の情報を管理しています。

公式ルートとオルタネートルート

公式のDNSルートゾーンは、ICANN（The Internet Corporation for Assigned Names and Numbers）によって管理されています。しかし、この公式ルートとは別に、いくつかの組織が独自の「オルタネートルート」を運営しています。これらのオルタネートルートは、独自のルートネームサーバを持ち、独自のトップレベルドメインを含む独自のドメイン名空間を管理しています。

オルタネートルートの運営目的

オルタネートルートは、大きく分けて3つのグループに分類できます。

1. 理想主義的・イデオロギー的理由: インターネットの自由や多様性を追求する目的で運営されるもの
2. 営利目的: ビジネスとして利益を追求する目的で運営されるもの
3. 組織内部利用: 特定の組織が内部ネットワークのために運営するもの

オルタネートルートの技術と課題

オルタネートルートの技術的なセットアップ自体は比較的簡単ですが、信頼できるルートサーバネットワークを維持するには、地理的に分散した複数のサーバを24時間365日稼働させ続ける必要があり、非常に手間とコストがかかります。

過去の商業的失敗

インターネットバブル期には、オルタネートルートプロバイダが非公式なトップレベルドメインを提供することで利益を得られると期待されていましたが、実際には、少数のISPしかオルタネートルート業者の提供するドメインを使用せず、一般的にはICANNの認証を受けたルートサーバのみがサポートされました。このため、オルタネートルートは商業的には成功しませんでした。

ドメイン名の衝突

オルタネートルートの問題点の一つに、ドメイン名の衝突があります。例えば、かつてPacific Root社が運営していた「.biz」ドメインは、ICANNが公式に「.biz」ドメインを認める前に存在していました。そのため、同じドメイン名が異なるルートに存在し、異なるIPアドレスを指すという状態が生じました。このような衝突は、インターネットの不安定化を招く可能性があるため、オルタネートルートの大きな議論点となっています。

オルタネートルートの現状

現在、多くのオルタネートルートは、相互に協力しようとしていますが、中には協力しないものも存在します。また、オルタネートルート間の衝突を解決するための統一的なプロセスも確立されていません。

主要なオルタネートルート一覧

以下に、現在活動中の主なオルタネートルートとその特徴、提供しているTLDの例を示します。

活動中の公開されたルートゾーン

Public-Root: オープンなDNSインフラを提供することを目的としており、世界中に13のルートサーバを設置しています。
提供TLDの例: 多数のTLD
OpenNIC: コミュニティベースで運営されており、様々なTLDを提供しています。
提供TLDの例: `.bbs`, `.dyn`, `.free`, `.fur`, `.geek`, `.glue`, `.indy`, `.ing`, `.null`, `.oss`, `.parody`, `.eco`
New.Net: 多くのTLDを提供しており、ビジネス関連のドメインが多いのが特徴です。
提供TLDの例: `.agent`, `.arts`, `.auction`, `.chat`, `.shop`, `.free`, `.golf`, `.llc`, `.llp`, `.love`, `.ltd`, `.school`, `.scifi`, `.soc`, `.video`, `.travel`, `.tech`, `.kids`, `.church`, `.game`, `.mp3`, `.med`, `.mail`, `.xxx`, `.club`, `.inc`, `.law`, `.family`, `.sport`
UnifiedRoot: すべてのTLDを有効とみなしており、有料で新しいTLDを追加することも可能です。
Namespace: 多くのゾーンの名前解決をサポートしています。
MobileTLD: 携帯端末向けのドメイン名解決を提供しています。
Open RSC: ICANNのDNS管理に挑戦する組織で、独自のルートゾーンを提供しています。
提供TLDの例: `.per`, `.etc`, `.web`, `.shop`, `.pickle`, `.sco`, `.mail`

活動していない公開されたルートゾーン

AlterNIC: 1997年に運営を停止しました。
提供TLDの例: `.exp`, `.llc`, `.lnx`, `.ltd`, `.med`, `.nic`, `.noc`, `.porn`, `.xxx`
eDNS: 1998年に運営を停止しました。
提供TLDの例: `.biz`, `.corp`, `.fam`, `.k12`, `.npo`, `.per`, `.web`
Iperdome: 1999年に運営を停止しました。
提供TLDの例: `.biz`, `.corp`, `.gay`, `.k12`, `.npo`, `.pol`, `.web`
Open Root Server Network (ORSN): 2008年にサービスを停止しました。ICANNルートのミラーとして使われていました。

活動中の非公開のルートゾーン

多くの組織が、組織内部のDNSインフラに独自のトップレベルドメインを設定し、内部ネットワークでのみ使用しています。例えば、アメリカ国家安全保障局（NSA）は「.nsa」ドメインを使用しています。

まとめ

オルタネートルートは、インターネットのドメイン名システムにおける多様性や柔軟性を追求する試みとして存在しますが、ドメイン名の衝突や管理体制の複雑さなど、課題も多く抱えています。今後、これらの課題を解決し、より安定したインターネット環境を実現するためには、オルタネートルートの運営者間での協力体制の構築が重要となるでしょう。

参考文献

RFC 2826: オルタネートルートに関するインターネットアーキテクチャ委員会の意見表明
各オルタネートルートの公式サイト

外部リンク

UnifiedRoot (英語)
OpenNIC Project Site (英語)
Open Root Server Confederation (英語)
Open Root Server Network (ORSN) (英語)
Public-Root (英語)
Cesidian Root (英語)
Dns Advantage (英語)
ORSN Discussed on CircleID (英語)

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